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マッドパーティードブキュア 84

「お婆さん、変になったのは治ったんだね」
「ああ、おかげさまでね」
「それは良かった」
 メンチは斧を掲げて叫ぶ。
「遠慮なく叩きのめせるからな!」
 メンチは跳躍する。迷いのない一直線の軌道。予測のし易い軌道。老婆がナイフを投げる。
「危ない!」
 マラキイが叫ぶ。メンチの足元で爆発が起きる。空中で斧を薙ぎ払い、爆風を防ぎ返す。その隙にメンチに向けてナイフが迫る。
「遅え!」
 ナイフがメンチに至るよりも速く、斧が再来する。勢いのままに二回転したのだ。ナイフの刃を明後日の方向に弾き返す。勢いは止まらない。
「くっ!」
 老婆は数本のナイフを放り投げる。ナイフは空中で列陣を成し、斧を受ける。小さな爆炎が連続して上がる。老婆が手に握っていたナイフが斧を受け止める。爆発に勢いは削がれても、突進はとまらない。老婆は吹き飛び地面を転がる。
「マラキイ、行くぞ」
「おう」
 メンチがマラキイに斧の柄を差し出す。マラキイは頷き、柄を掴む。
「「ドブキュア! マッドネススタンプ!」」
 二人は声を合わせて叫び、高く跳ぶ。斧の表面に街の諸相が映し出される。必殺の一撃が地面の老婆に振り下ろされる。
「そのあたりで」
 混沌の斬撃が老婆に届くことはなかった。
「なに!?」
 メンチとマラキイは驚きに目を見開く。二人の大斧は宙に浮かぶ鉄塊に止められていた。厳密な直線と直角で構成された鉄塊、正黄金律鉄塊だ。
「セエジ、てめえ」
 鉄塊を宙に放ったのは瓦礫から現れたセエジだった。
「裏切りやがったのか」
「お婆さんを殺されると困っちゃうんですよね」
「うるせえ!」
 聞く耳を持たず、メンチは斧で薙ぎ払う。
「聞いては貰えないようですね」
 セエジは黄金律鉄塊を無造作に放り投げ、斧を受け止める。
「ハグラさん」
「はいよ」
 老婆が答え、セエジとメンチの間にナイフを投げる。ナイフは黒い煙を上げて爆発する。
「くそ!」
 煙が晴れたときには老婆とセエジの姿はなかった。

【つづく】

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