見出し画像

マッドパーティードブキュア 348

 メンチの斧が眩く煌めき、何もない空間を切り裂いた。はらり、と空間に裂け目が入る。
「できた……はずだ」
 メンチが自信なさげに呟く。マラキイはその裂け目から流れ込む空気を感じて、自身がなさそうな様子の理由がわかる気がした。
「これは……この向こうは本当にドブヶ丘なのですか?」
「ああ、他の世界が間に挟まる隙間なんてありゃしない」
「でも、これは……」
 裂け目から流れ出てくる空気は透き通るほどに清浄で、わずかに吸うだけで心が澄み渡るような澄んだ空気だった。そんな空気はドブヶ丘の空気ではない。
「何が起きている?」
「わかりません」 
 セエジが首を振る。
 マラキイの中にある黄金腕の知識は、その持ち主のドブヶ丘での行動までは至っていなかった。ただ、この地区での工作は本筋ではない。本当の狙いはドブヶ丘の街でなんらかの秩序をもたらすこと。それが何なのかはマラキイは知ることができなかった。
 だが、一つだけわかっていることがある。ドブヶ丘の街に何かが起きている。おそらくろくでもないことが。
「いくぞ」
 だから、マラキイは誰に言うともなく言って、一歩前に踏み出した。
 何が起きているにしても、手荒な事態になるはずだ。自分が誰かを危険な目に合わせる権限を持っているとはマラキイは思わなかった。
 揃った足音がした。隣を見る。
「何勝手に行こうとしてんだよ」
 メンチがマラキイの肩を強めに小突いた。
「安全じゃないぞ」
「あたしはドブキュアになっちまったんだよ」
 メンチは顰め面で鼻を鳴らした、
「こんなクソみたいな空気は気に喰わねえ」
「私もこんな小綺麗な格好、そろそろ落ち着かなくなってきたよ」
 女神が背の高い体を見下ろしながら言った。
「おそらく、正黄金律教会でしょう」
 セエジが言う。
「そろそろケリをつける時です」
「私も行くよ」
 しっかりとした声で、テツノが言う。
「駄目とは言わないですよね」
「仕方ねえな」
 マラキイは頷いた。

【つづく】

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?