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マッドパーティードブキュア 166

「それで」
 メンチはいらいらとした調子で言い返した。セエジの得意げな様子がだんだんと鼻についてきたし、話の先が見えない。難しい話は苦手だ。
「てめえは何のためにそんなことをしてるってんだ?」
「ばれない程度にこの世界を守るためです」
「正義の味方きどりかよ」
 吐き捨てたメンチの言葉に、きょとんとした顔でセエジは問い返した。
「あなたは違うのですか?」
「はあ?」
 あまりに場違いで、そのくせまっすぐに発せられた問いかけに思わず間抜けな戸惑いの声が出た。
「私が正義の味方のわけないだろうが」
「そうですか? 弱き者のために戦っているようにも見えるのですが」
「あたしは」
 セエジの言葉を遮り、メンチは荒い声で言う。
「降りかかる火の粉を払ってるだけだ」
「そうですか」
 思いのほかあっさりとセエジは引き下がる。さほど重要ではなかったのだろうか。それとも今の会話をすること自体に意味があったのだろうか。すまし顔の裏側の意図は読めない。
 すっかり興味をなくしたように、セエジは話を戻した。
「それで、獣を追い返すうちに、相手の意図も見えてきたのです」
「なんでやすか? こちらの状況を探るってことでやすか?」
「ええ、それも目的の一つでしょう。ただ」
 セエジは言葉を切り、一同を見渡した。メンチは内心で舌打ちをする。芝居がかった言い様が癪に障る。それでも注目してしまうのにもまたいら立ちを感じる。
「何か明確な目的をもって探しているようなのです」
「あっしらのことでやすか?」
「いえ、それにしては範囲が広すぎる。それに、そうであればもっと被害の出たところに獣を集中させるはずです」
「それじゃあ一体?」
 ズウラの問いかけに、ここに来て初めてセエジの口調が淀みを見せた。ほんの僅かに沈黙する。その両目にぎらりと決意が浮かぶ。あたりを見渡し、顔を寄せて低い声で問いかけた。
「皆さんは『ドブヶ丘の心臓』という名を聞いたことはありませんか?」

【つづく】

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