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マッドパーティードブキュア 232
ぬるい感触に目をつむり、身構える。痛みや熱さはない。目の周りの液体をぬぐい、斧を握って立ち上がる。立ち上がろうとする。その瞬間、橋の下に怒号が響いた。
「わりゃあ! なんしょんならぁ!」
「ひっ、ごめんなさい。お母様」
転倒した「子ども」が尻餅をついたまま怯えた声を出す。どん、と足を踏み鳴らして女性が立ち上がり、「子ども」に罵声を浴びせかける。
「わりゃあ、わしん客にちゃぁかけるんは、わしにちゃぁかけるんと同じとわかっとんじゃろうな!」
何を言っているのかはわからないけれども、その勢いにメンチは自分の体が縮こまってしまうのを感じた。
「ごめんなさい、お母様、ごめんなさい、お母様」
お茶をこぼした「子ども」は額を床に擦り付けて謝罪の言葉を呟き続ける。
「いくらあやまってもなおらんものじゃろが!」
意味不明の怒号とともに女性が腕を振り上げる。メンチはそこに破壊の予感を見た。女性の腕が振り下ろされる。床に蹲る「子ども」めがけて。
グワッゴァサッシャーン
世界の砕けるような音がした。
衝撃の余波が穏やかなどぶくら川の表面を激しく泡立たせる。水面下に潜むどぶめっこたちが慌てて散り散りに逃げ去っていく。
「なんのつもりだい?」
女性が低い声で尋ねた。
「さあ、何やってるんだろうね」
斧を掲げたまま、メンチは答えた。斧は女性の拳を受け止めていた。支える腕がなくなったかのように痺れている。
「そんなに、怒ることじゃないだろう」
「人んちのしつけに口出すんじゃないよ」
「無礼働かれたあたしが言ってるんだ」
少し考えてから、女性は拳をおろした。
「おまえさんがそう言うなら、まあいいさ」
拳を開いてひらひらと振る。
「火傷とか怪我とかしてないかい」
「ああ、お陰様でな」
メンチは斧をおろして手のひらに目をやった。次第に手の感覚が戻ってくる。凄まじい一撃だった。混沌の力を得ていない頃のメンチでは受けきれなかっただろう。
【つづく】
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