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マッドパーティドブキュア 262

「もういいだろう。出ておいで」
 盟主の声に姿を現したのは受注担当官だった。きまり悪そうな、青ざめた顔でメンチと盟主に交互に視線を送っている。
「なんで?」
 メンチの口から声が漏れた。 
 なんで? その後に続く言葉がなんなのかはメンチ自身にもわからない。なんで、受注担当官が盟主を呼んだのか。なんで、盟主は依頼を受けたのか。疑問ばかりが頭に浮かぶ。
「まあこんなところで話してるのも、なんだ、落ち着けるところにいこうか」
 盟主はにこやかな声のままで棲家の方を指さした。
 ドブパックが地面に叩きつけられた音に驚いたのか、「子どもたち」が呆然とした顔でこちらを見つめていた。

◆◆◆ 

 盟主はぴくりとも動かないドブパックから手際よく魔法少女装束をはぎ取ると拘束して、棲家の片隅に放り投げた。「子どもたち」は困惑したように昏倒したドブパックを取り囲んで眺めている。
「さて、と」
 どっかりと腰を下ろすと盟主は腰をさすった。
「戦うのなんて久しぶりだから、くたびれちまった」
「お疲れ様です」
「いいのいいの」
 盟主の正面に座った受注担当官が頭を下げた。
 受注担当官の後ろに座ったメンチは居心地悪そうにもぞもぞと姿勢をただした。両脇に座ったズウラと老婆が、やはり困惑した顔で視線を漂わせているのを感じる。 
 目の前の受注担当官の後頭部を見つめる。疑問は何も解消されていない。
 作戦の前に話した会話を思い出す。盟主への依頼には膨大な代償が必要となる。たとえそれが調達屋連盟の構成員であっても、幹部であったとしても。受注担当官は何を支払ったのだろう。あるいは、なにを支払うと契約したのだろう。そして、その代償はメンチたちも背負うべきものなのだろうか。
 じわりと緊張した混乱が棲家を満たしていた。
「なにか、聞きたいことがあるのかな?」
 盟主が口を開いた。メンチに向けられた言葉のようだった。
 メンチは少し考えてから、口を開いた。

【つづく】

 

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