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マッドパーティードブキュア 240
「何が起きたのかもわかりませんでした。ただ、気が付いた時には私は地面に倒れていて、あの女は」
そこまで言って受注担当官は言葉を切った。呼び起こした記憶の恐ろしさに押しつぶされたように固まり、じっと虚空を見つめた。
沈黙が流れる。受注担当官は何も言わない。メンチは少し考えてから、受注担当官の肩に手を置いて尋ねた。
「話せないならいいぞ」
自分らしくない言葉と行動に思えた。でも、例えばテツノだったら、同じようなことをしたと思う。だから、頭に浮かんだ行動を試してみた。それが効果的なような気がしたから。
「あの女は」
実際、受注担当官は多少なりとも気がまぎれたようで、震えを抑えて口を開いた。
「あの女は倒れた私に、あの袋をかぶせたのです」
「棲家にあった袋か?」
「ええ、おそらくは。一目見ただけで、なにか異質なものであることがわかりました。逃げようとしましたが、打倒されたダメージで身体を動かすこともできず。ろくな抵抗もできないうちに、袋の中に入れられてしまったのです」
「袋の中で何があった」
「わかりません」
「そうか」
頷いて見せるメンチに、受注担当官は慌てて言った。
「本当にわからないのです。袋をかぶせられて、真っ暗で……いつの間にかその真っ暗の中に意識が溶けていくような感覚があったのだけ覚えています。それだけです。その後のことはよく覚えていません。私の思考はまるで失われて、ただ、あの女の命令だけが意識にありました」
小さく震えながらも、受注担当官は言葉を続ける。
「幼い子供が親の言葉に従うように、私は……私たちは黙ってあの女の命令に従い続けました。恐ろしいことも、悍ましいこともしました」
そこまで言って受注担当官はひときわ大きく震えた。メンチはその肩にかけた手でぎこちなく撫でてみた。
「でも、それを恐ろしいとも悍ましいとも思うことはありませんでした」
「それから、どうなったんだ?」
メンチは尋ねた。
【つづく】
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