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マッドパーティドブキュア 334

 セエジが首を傾げながら掲げた布は不可思議な色をしていた。黒とも白とも七色ともつかない奇妙な色合い。一度見たと思っても改めて目を向けると、違う外見になっているような、不確定さを布の形に押し固めたような布だった。
「そいつは……」
「もしかして、例の袋ですか」
 セエジは袋を揺らめかせた。その度に袋は不連続に輪郭を変化させる。目に捉えづらいその形状の中で、継続して形を保つ部位があった。
 その部位は痛ましい傷の形をしていた。縦に走ったその傷の切り口は、マラキイには見慣れたメンチの斧の切り拓いた痕だった。
 そういえば、袋から脱出した後に回収する余裕はなくて、捨て置いたままになっていた。
「多分そうだ」
「そうですか。成し遂げたのですね」
「それは壊せた。ラゲ度のクソ野郎も倒した。でも、あれは止められなかった」
 マラキイは空を見上げた。黄金の腕は未だに天高く輝いている。
「まだ、なんとかなるかもしれません。女神様、この布を」
「ええ」
 セエジが女神に布を差し出した。女神は慎重な顔つきで布に手を伸ばす。
 そうか、とマラキイは心の内で頷く。女神が袋を手に入れて、力を取り戻せば、あの輝く方陣の腕をなんとか対処できるかもしれない。なにせ、腐ってもドブヶ丘の女神なのだ。加えて今の女神は腐ってもいない。
 だが
「あ」
 女神が手を伸ばすと布はふわりと身を躱すように揺らめいた。染み一つない女神の白い指先が空を切る。
「なんで?」
 なんど試しても同じだった。女神が布に触れようとするたびに、布は指を拒否するようにひるがえり、どうしても女神は布に触れられない。
「拒否されて、いる?」
「そんな」
 セエジが険しい顔で目を見開いた。
「どうするんだよ」
「待ってください。今、考えます」
 思わず漏れたマラキイの叱責に、セエジは目を瞑った。
 沈黙。誰も何も言わない。何も言うことができない。
 焦燥感が高まっていく。
 ふいに沈黙が破られた。

【つづく】
 

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