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マッドパーティードブキュア 203

 心臓の質問に、メンチは首を傾げる。目の前の存在は何を言いたいのだろう。心臓は笑って続ける。
「君がしたいことはできるかもしれないよ。でも、私の力を使うってことは、そんなに簡単なことじゃない。必ず……そうだね、結果をもたらす。それも、なにかしら極端な結果になるだろうさ」
「極端な、結果?」
「ああ、いいにつけ、悪いにつけ、極端な結果ってことだよ。すごくいい結果か、すごく悪い結果。君にも、君の周りにも、君の敵にも。なにか極端に、大きな結果を与えることになるだろうよ」
「それが?」
 メンチは頷いて見せる。心臓の言葉はどこかで聞いた言葉のような気がした。
「その結果は、君が背負うことになるんだ。私はただの力だ、それを使うのは君なんだよ」
「わかっているよ」
「本当に、わかっているかい?」
 心臓の穏やかな目が、メンチを覗き込む。一瞬、心臓の視線が振れる。メンチの手元へ。メンチが握る斧に向かって。
 思い当たる。心臓の言葉は、かつて女神がメンチにかけた言葉、忠告。この斧を渡されたときに、斧とともに与えられた言葉。力、善悪。この斧の力。記憶が蘇る。斧を得てから、今まで。この斧の力がなければ、どうなっていたのだろう。今のような戦いに巻き込まれることはなかったのだろうか。そうであれば、失わなかったものがあるのだろうか。得られなかったものは? 最後に浮かんだのはテツノの顔。希薄な存在になる前の、テツノの笑顔。この斧がなければ、テツノは?
「どうする? 今ならまだ引き返せるよ」
 心臓がメンチに手を伸ばす。あの時は、女神の時はなにも知らなかった。何かを失うということ、その本当の意味を。今はもうすでに知っている。知ってしまっている。差し伸べられた心臓の手を見つめる。この手を取れば、何を得られるのだろう。そして、何を失うのだろう。それでも。
 テツノの顔が浮かぶ。
「あたりまえだろ」
 メンチはしっかりと心臓の手を取った。

【つづく】

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