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マッドパーティードブキュア 243

「そんなに重要なことではないかもしれないのです」
「いいさ、とりあえず話してみなよ」
 なおも言い渋る受注担当官を、なだめるように老婆は優しい声で先を促した。受注担当官はためらいがちに言葉をつづけた。
「メンチさんの斧と、あの女……袋の力、なのでしょうか? その二つがぶつかり合った時の感覚を以前に感じたことがあったような気がするのです」
「なんだって?」
「それは、どこで感じたんでやすか?」
「確かに同じだったとは、確信をもっては言えないのですが……以前、一度だけ盟主が現場に出張ってくるのに居合わせたことがあります。その時に、あの音に似た音を聞いたような気がするのです」
「盟主って……連盟の盟主のことか?」
「ええ、そうです」
「まさか」
 メンチは声が上ずってしまうのを感じた。連盟に係わる話で「盟主」といいう語が出た時には、確認するまでもなく連盟の盟主のことを指す。
 盟主は連盟を立ち上げた伝説の調達屋だ。あらゆる困難な依頼をこなし、ドブヶ丘という混沌の街で腕一つで連盟を一つの組織として認めさせた存在だ。連盟への加入非加入を問わず街の調達屋の間では憧れの存在だ。
 もちろんメンチにとっても例外ではない。
「盟主も混沌の力を使っていたってことなのか?」
「おそらくですが。似た力を使っていたことは確かです」
 メンチはぎゅっと斧の柄を握りしめた。
「その盟主ってのは、忙しいのかい?」
 老婆が尋ねた。
「忙しいかどうかはわかりませんが、どうかしたのですか?」
「あの女を倒すのに力を借りれないかと思ってね」
 老婆の言葉に受注担当官は考え込んだ。険しい顔をして腕を組む。
「難しいのかい?」
「いえ、正式な依頼を出せば動いてくれるとは思うのですけれども、多額の報酬が必要になると思います」
「連盟の連中がさらわれてるんだろう? それで動いてくれないのかい?」
「ええ」
 受注担当官が頷く。メンチは以前、聞いたある話を思い出した。

【つづく】
 

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