![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/128254518/rectangle_large_type_2_08eef0c010aae75e8863521452d0147d.png?width=1200)
マッドパーティードブキュア 115
「おねえさん達、どちらまで?」
果てなく続くテーブルの一つから、メンチたちに呼びかける声があった。店内に満ちるざわめきに埋もれそうな穏やかな声だった。
メンチは声の発せられたテーブルを見る。そこには一人の影が座っていた。影はメンチを見上げながら言う。
「いい天気ですものね。散歩日和だ」
メンチはそこまで言葉を聞いて初めて、この影が先ほど話しかけてきていた影だと気がついた。影の区別をつけるのは酷く難しい。
「ウェイターさんに教えてもらったんですよ。ずっとここにいても退屈ですから」
テツノが笑って答えると、影もざわめくような笑いを返した。
「たしかにここは静かで穏やかですけれど、何もありませんからね」
時々騒がしくはなりますが、と笑いながら付け加える。メンチは少しだけ言葉の意味を考えて
「さっきの虎や象のことか?」
と、思い至って尋ねてみる。影は頷く。
「あなた達のお陰で上手く乗り切れました」
「もしかして」
テツノが口をひらく。メンチには眉根を僅かに寄せているのが見えた。
「今私達が出かけると、次に何かが来たときに危ないですか?」
「あーそれは、まあ」
影は曖昧な声を漏らしてから首を振りながら付け加えた。
「でも、別に構いませんよ。今まではあなた達がいなくてもなんとかなっていたんだ。次もなんとかなるでしょうから」
「そうですか」
表情を曇らせてテツノが頷く。ちらりとメンチの顔を見てくる。
「大丈夫さ」
メンチは胸の内に湧いた不安と苛立ちを隠してらテツノの肩を軽く叩いて言った。さっきまで座っていた席にちらりと視線を送る。
「マラキイさまもおらっしゃられるんだ。酷いことにはならないさ」
「うん、そうだね」
笑顔を作って頷いて見せるテツノの顔には憂いの色が残ってい。
「行こう」
メンチは乱暴に振り返って、テツノと女神の手握って引いた。
「それでしたら」
影が立ち上がりながら言った。
「私が案内をしましょうか?」
【つづく】
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?