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マッドパーティードブキュア 262

「やあ、たしかメンチちゃんだったね。悪いね、遅くなっちゃって」
 メンチの方に視線を向けて男性、盟主が声をかけた。相変わらず軽い声だった。知っているのだろうか。メンチはたくさんいる調達屋のうちの一人でしかない。盟主がメンチの顔と名前を把握しているのは意外だった。
「あんたのお仲間かい」
「どうだろうね」
 ドブパックの詰問に腫れあがった口で軽口を返す。盟主の口ぶりからすると少なくともメンチと敵対するつもりで姿を現したのではないようだ。
「なんでこんなところに?」
 盟主に尋ねてみる。ドブパックの肩越しに尋ねる形になる。
「ちょっと呼ばれたんでね」
「呼ばれた?」
 誰に? 
「無視してんじゃねえ!」
 浮かんだ疑問を口にするより前に、激高したドブパックが盟主に飛び掛かった。
 大地を揺るがす鈍い音が響き渡った。
 血に霞んだ目ではその一瞬に何が起きたのかは見切ることはできなかった。ただ、何かが起きたのだけが分かった。
 ドブパックが盟主に飛び掛かった、ように見えた。だが、轟音と土ぼこりが収まった後に見えたのは地面に対して垂直に叩きつけられたドブパックの姿だった。顔面から石だらけの地面に叩きつけられている。殴りかかった体勢のままで、受け身をとろうとした様子もなかった。
「ごめんごめん、待たしてしまったね」
 さかさまに地面に突き立てられ、ピクリとも動かないドブパックを通り過ぎながら盟主はメンチに声をかけた。戦闘の後、それもドブパックほどの強敵との戦闘の後とは思えないほど、気軽で快活な声だった。
「なんで、こんなところに?」
 メンチは同じ問いをもう一度繰り返した。
「呼ばれたって、言わなかったっけ?」
 盟主はもう一度答えた。その声には苛立ちや怒りのない、平静で穏やかな声だった。
「いえ、その……誰に呼ばれたのですか?」
 メンチの言葉は無意識のうちに丁寧な言葉になっていた。
「知りたいかい?」
 盟主はにっこりと笑った。

【つづく】

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