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マッドパーティードブキュア117

「あの野郎!」
 メンチが罵りの声を上げた。影が不思議そうに返す。
「ご存じの方ですか?」
「てめえも見てただろうが? あの糞ガキ! こんなところに居やがったのか」
 メンチは指を振り回して道の果てを指さす。指の先にいるのは一人の少年だった。穏やかな笑みを浮かべ、歩いている。メンチたちがアジトを失った原因、セエジだ。
 メンチの言葉の通り、セエジとその同行者によってメンチたちのアジトが壊滅した現場を影は目撃しているはずだった。アジトの廃墟からこの隙間の世界に誘ったのは他ならぬこの影だったのだから。
 影はゆっくりと首を振った。
「あなたたちの世界でのことですか? 残念ながら、私にはわかりませんね」
「バックレてんじゃねえよ」
「私たちにはあなたたちの世界はとても曖昧に見えるのですよ。あなたたちがこの世界をひどく奇妙にこんがらがって見えるのと同じようにね」
 ほら、と影は道の外のかなたを指さした。
「まだ、見えますか?」
 メンチは影の指のさす先を見る。そこには相変わらずセエジがいる。こちらを見つめながら、忌々しい微笑みを浮かべて歩いてくる。
「ああ、見えるよ」
「それなら、本当にそこにいるのかもしれませんね」
「あ?」
 いらいらとした調子ですごんで見せるが、影はどこ吹く風というように振り返り、歩き始める。
「どちらにしろ、あなたに見えているその男の子……でしたか? その子は、どうですか? あなたに今見えているようにふるまいますか?」
「それは……」
 メンチは口ごもる。たしかに、と内心で首をかしげる。今、道の外に見えているのは確かにセエジだが、こちらには何の反応も示してこない。ただずっとこちらに歩いてくるだけだ。
「じゃあ、あれはなんなんだよ」
「さあ? 事象の組み合わせがたまたま見せた断片か何かではないですか?」
「ここにはいないってことかよ」
「見えているなら、いない可能性もありますね」
 影は平坦な口調で言った。

【つづく】

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