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マッドパーティードブキュア 191

 獣の目線が降り注ぐ。メンチは斧を握りしめる。やるしかない。
 隣でマラキイと老婆が身構える。セエジと女神を背に円陣を組む。
「切り抜けるぞ」
 マラキイが小さな声で告げる。頷く。頷くしかない。
 まずは目の前の獣。剣呑な爪をもった獣。こいつを倒す。それ以外に道はない。マラキイに目で合図を送る。マラキイが頷く。構わない。こっちの方が分かりやすくてやりやすい。
「待って」
 背後からセエジが声を挟んだ。
「なんだよ」
 いらいらと振り返る。
「今戦っちゃだめです」
 小さな、けれども強い声だった。今は構っている暇はない。まだ獣たちも動揺しているけれども、我に返ればすぐにでも襲い掛かってくるだろう。斧を握りしめる。どこかふわふわとしていた肉体が自分の座標に戻ってくるのを感じる。
「ここで、戦うとやつらに伝わってしまいます」
 細い手が、斧の柄を抑えた。セエジの手だった。
「でも、戦わないわけにはいかないだろうが。ここで黙って食われろってのか?」
「そうは言っていません」
 少しだけ考えてから、セエジは一つため息をつく。しかたがありませんね、と呟いてから、メンチとマラキイの顔を見て言う。
「ここは僕に任せてください」
 メンチが何か言い返すより早く、セエジは懐から黄金律鉄塊を一つ取り出した。一際端正に輝く美しい黄金律鉄塊だった。
「がぐう?」
 獣たちが一斉に黄金律鉄塊の気配に向き直る。興味を惹かれた様子で、ある獣はくんくんと鼻を鳴らし、また別の獣は触手をひらひらとセエジの方に伸ばす。
「注意を引いてどうするんだよ」
「静かに」
 老婆がメンチの肩に手を置く。
 セエジは黄金律鉄塊の上に手を重ね。じっと睨む。均整の輝きが一際大きくなる。
「メンチさん」
「おう」
「これ、飛ばしてください」
「え?」
 セエジが言う。言葉とともに何かが飛んでくる。考えるよりも早く、メンチは斧を構えて、振りぬいていた。
 軽い手ごたえを斧を握る手に感じた。

【つづく】

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