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マッドパーティードブキュア 95
「お水のおかわりはいかがでしょう」
声をかけてきたのはウェイターだった。相変わらず背は高く見上げてもその顔は見えない。天井降ってくるような声が続ける。
「お済みのお皿お下げしますね」
「ああ、はい」
メンチは思わず空になった皿を差し出した。皿が見えない上空へ消えていく。
「他のお客様とお話するのはお控えください」
さり気ない口調で言葉が降りてくる。
「なんでてめえにそんなこと決められねえといけないんだよ」
むっとした調子でメンチは言い返す。今にも立ち上がって声をかけに行きそうだ。上空から返ってきたのは深いため息だった。
「存じておりますよ、みなさんが外からいらっしゃったってことは」
「悪いか?」
「悪くはありませんとも、悪くはね。ただ、あの人たちに話しかけるのは慎重になったほうが良いと言っているのです」
「なんでだよ」
怪訝な顔をしてメンチが聞き返す。降ってくる口調は無視するには良心的な響きを持っているように思えた。
「ここいらの人間はあまり外の人間と話すことを好みませんから。あなたたちに話しかけられるとバツが悪い思いをしてしまいますから」
「あたしらに話しかけられるのが恥だって言いたいのか?」
「有り体に言えば」
「てめえ」
メンチの静かな声に怒りがにじむ。ソファに立てかけた斧に手をかける。
「暴力行為はお控えください」
制止の言葉が降ってくる。
「舐めんな!」
叫び、メンチは立ち上がる。タッパがある相手との喧嘩には慣れている。負ける気はしない。
ドガン!
メンチが飛びかかろうとしたその瞬間に、店内に爆発音が響いた。
「なんだ!?」
叫び、音の方を見る。
そこには奇妙な生き物がいた。直線と直角で構成された象のような生き物だ。象は壁を砕いて店内に入ってきている。淡々とまっすぐに進む。その平らな足に踏まれた客が悲鳴もあげず、平面になって消える。
「おや、また出ましたか」
空から降る声がため息とともに言った。
【つづく】
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