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マッドパーティードブキュア 212

「お、おい、お前たちどこへ行く!」
 口を利く獣が狼狽の声を上げる。獣たちは気にせず、散り散りにかけ去っていき、最後には喋る獣が一匹だけ残った。
「で、あんたはどうするんだ?」
 獣を睨みつけながら、メンチが言う。容赦のない冷酷な声。
 獣は一歩後ずさりをした。
「おとなしく裏を話すんなら、命までは取らねえぜ」
 先ほどの獣の言葉をなぞるように、メンチは言う。獣は忌々しそうに一つ舌打ちをした。
「この借りはいつか必ず」
 それだけ言うと、ぷつりと糸が切れたように、獣は表情を失った。一瞬の後我に返り、あたりを見渡す。その表情にはもう知性はなくなっていた。他の獣たち同様、混沌の野生の表情をしていた。
「きゃわん!」
 一声吠えると他の獣を追って後ろを向いて駆けだしていった。
「あ、待って」
「追っても無駄ですよ」
 追いかけようとするメンチにセエジが声をかけた。 
「なんでだよ?」
「もう接続を切ってしまっているでしょうから」
 セエジが言った。
「接続、ってなんだよ」
 聞きなれない言葉にメンチは首を傾げる。
「あの獣は何者かに操られていました。喋っていたのもおそらくはその操っている何者かでしょう。もはやつなげている意味もないと判断したのでしょう」
「何者かって、のは正黄金律教会の連中か?」
「おそらくは。やつらの中に獣を扱う部署があると聞いたことがあります。しかし、混沌の境界を抜けて意識を接続できるものまでいるとは思いませんでした」
「その割にはあっさりと引き上げちまったけれどもな」
「むこうも、あなたが『ドブヶ丘の心臓』の力を手にしているとは思っていなかったのでしょう」
 そう言って、セエジはメンチの持つ斧に目をやった。赤錆びたその斧は相変わらず暗く輝いている。
「それにしても、もう使いこなしているのですね」
「いや、それは……」
 メンチは答えようとして、口ごもった。
「どうしたのですか?」
 セエジが不思議そうに首を傾げた。

【つづく】

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