マッドパーティードブキュア 346
緩慢な時間の流れが、本来の速度を取り戻す。
マラキイと黄金の手は元の領域にいた。中空のメンチの斧が、振り下ろされる。黄金の手はもう動けない。かわすことはできない。
斧の刃が黄金の手の表面に触れる。歪んだ轟音。躊躇も逡巡もなく、七色に輝く刃は黄金の秩序装置を切り拓き破壊していく。指のない手はばらばらと形を失い、四散していく。
「ざんねんだよ」
散り散りになっていく意識の破片が、マラキイに語り掛けてきた。その声には何の感情も込められていないように思えた。後悔も、未練も。けれども、マラキイは自分たちに損害をもたらしたものが道具に過ぎなかったからと言って、心やすらかに世界を去るのを許すつもりはなった。
網目状にかすれゆく黄金の輝きに目を凝らす。無秩序に広がる黄金の手の残骸のなかに、それはあった。マラキイは手を伸ばす。
「ドブキュア、マッドネスプライヤー」
狙ったものを逃がさないように、小さく呟き手のひらに魔法少女力を籠める。わずかな空気の流れで、それは容易に身を躱しそうだった。
素早く、かつ慎重にマラキイは手のひらを閉じた。
「え?」
驚きの感情が手のひらに伝わってくる。
「なにをするつもりだ」
拳のなかで、黄金の腕の意志の残滓がうろたえた声を上げる。
「逃がしはしないよ」
マラキイは無慈悲に呟き、拳を緩く握った。かすかな蠕動を感じる。秩序の意志の断末魔の身もだえ。マラキイは手のひらをゆっくりと握りしめていく。その意思を、ありようを掌握していく。手のひらのなかの存在は小さく薄れていき、やがて、マラキイのなかに完全に飲み込まれてしまった。
「終わった、のか?」
地面に斧を突き立てて、メンチが言った。油断なくあたりを見渡している。
「やったね、メンチ」
テツノが叫びながらメンチに抱き着くと、メンチは狼狽えたようにテツノを受け止めた。
「残念だが、終わってはいないようだぜ」
マラキイは鋭い声で言った。
【つづく】
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