見出し画像

マッドパーティードブキュア 151

「墓地というのでしょう。あなたたちがいなくなった人たちを埋めるのは。この群れにはそんな場所はありません。ここには今までそんなものを必要ありませんでしたから」
 影の男は振り返り辺りを見渡した。群れは奇妙な色彩と色合いの家並みで満たされている。余分なものが加わる隙間はどこにもない。
「今さら作るわけにも行きませんよ」
「でも、それでいいのかよ?」
「良くなくったって、どうにもならないでしょう。いいんですよ、もう。テツノさんのおかげであの人の最後も、知れたんだから」
 ゆっくりと噛み締めて飲み込むようなささやき声だった。納得しきれないことを納得しようとする諦め顔。
「ねえ」
 名を呼ばれたテツノが顔を上げた。
「あたしはあなたに上手くあの人のことを伝えられたかわからないのだけれども」
「いいえ、ちゃんと受け渡してもらいましたよ」
「そうだけれど、伝えられたのはあったことだけでしょう?」
 テツノは何を言っているのだろうか? 何を言いたいのだろうか? メンチは不思議に思う。
 今までもテツノが難しいことを言い始めることはあった。でも、今はそれとは違う気がする。メンチが経験できない体験、感覚に基づいた思考から導き出される言葉であるように思う。
 メンチの感情を余所にテツノは続ける。
「まだ、伝えられてないことがあるんです」
「でも全部教えてもらいましたよ」
「あの人がどう考えていたか、伝えられてますか?」
「考え?」
 男は首を振った。
「あの人はわたしに教えてくれたんです。考えていることを。あなたに伝えたいけど、伝えていない、伝えられなかったことを」
「なんですか? それは」
 躊躇いながら、おずおずと男が尋ねる。テツノは慎重に言葉を選びながら言う。
「あの人はあなたがいなくなることを恐れていました。どこかに行ってしまって、帰ってこないことを」
 男はテツノの言葉を聞いて、目をそらした。小さく「そうですか」と頷き、黙り込んだ。

【つづく】

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?