マッドパーティードブキュア 86
影の一団の指さす先にはひとくれの瓦礫の山があった。
「これか?」
マラキイが材木に手をかけると、一団は揃って首を振る。影の指たちはこれも揃ってメンチの斧を指した。
「そいつで掘れってことじゃねえでやすか」
「斧で?」
首をかしげながらメンチが材木の隙間に斧を差し込む。
途端に瓦礫の下の影がぞわりと増幅した。斧の暗い七色と混ざり合い、虚ろな形の不可視が瓦礫の上に広がる。
「なんだ?」
マラキイが目を凝らす。その不可視は見えているはずなのに、視界に移らず、ただぽっかりと認識のできない領域を生成している。メンチは領域を見つめながら、斧の刃をゆっくりと動かしてみる。柔らかな手ごたえともに、不可視の領域はゆっくりと広がっていく。
「大丈夫か?」
「ああ、たぶん、こんな感じかな?」
地面を掘り返すように、材木を彫り付けるように見えないその領域をメンチは形を整えていく。瓦礫は不可視に覆われて姿を変えていく。
そうして姿を変えた領域はやがて瓦礫と瓦礫の間にかすかな隙間の形をとって定着した。
「なんだ、それは」
「わからない、でも」
いつの間にか近づいてきていた影の一団はかわるがわるに隙間を覗き込むと揃って満足げに頷いた。
「え?」
気が付くと影の一団の人数が少しずつ減っている。何人いたのかは判然としないけれども、見ているうちにただ確実に段々と人数が減っていく。最後にはただ一人だけが残った。隙間の傍らに立って、じっとこっちを見ているようだ。すっとその影の手が隙間を指した。
メンチが隙間を見て、影に目を戻すとすでにそこには誰もいなくなっていた。
「その隙間に、消えたんじゃないかな」
ズウラの肩に縋りながらテツノが言った。
「この隙間に?」
マラキイが隙間を覗き込む。何も見えない。目の痛くなるような空白がそこに蠢いている。
「わたしたちもそこに入れって言ってたような気がする」
テツノは隙間の傍らににじり寄って言った。
【つづく】
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