「僕にとって、ジェラートは表現方法の一つなんです。」 #ニューウェ〜ブ京都案内
ニューウェ〜ブ京都案内 Vol.2
8月より不定期にて連載を始めた「ニューウェ〜ブ京都案内」。観光雑誌に載っているような王道の京都観光も良いけれど、HOTEL SHE, KYOTOにご宿泊いただく皆様には、せっかくなら従来の伝統的な京都観光からちょっと外れた場所で、ポジティブな予定不調和に出会う旅をご提案したい。そんな我々ホテルスタッフの想いからお届けする連載です。
第二回となる本日は、東山の「あじき路地」にあるジェラート屋さん「PICARO EIS(ピカロアイス)」さんをご紹介します。
若手作家が軒を連ねる「あじき路地」
京阪本線・清水五条駅から徒歩約3分。銭湯「大黒湯」の右隣にある、民家に挟まれた細い路地が「あじき路地」です。路地を挟むようにして町家の長屋が並んでおり、そこで若手作家たちがものづくりをしながら工房を開いたり、住居も兼ねて暮らしているのだとか。
このあじき路地の一角にお店を構えるのが、今回ご紹介する「PICARO EIS(ピカロアイス)」さんです。長屋の扉をからからと開けると右手側が小上がりになっており、4畳ほどのお部屋があります。靴を脱いで店内へあがると、畳のお部屋の奥側にジェラートのショーケースが置いてあり、なんだか斬新な光景です。
表現力が光る唯一無二のジェラートたち
畳の上で存在感を放つショーケース。店内の雰囲気だけでもすでに楽しいのですが、ピカロアイスさんの一番の特徴は、なんといってもジェラートに使われる素材の組み合わせの斬新さです。ジェラートのショーケースがある頭上に掲示されているラインナップには、個性豊かなフレーバーが揃っています。
こちらがお伺いした日のラインナップなのですが、「えのき」「しそ」「苔」と、一見、ジェラートと結びつかない素材が使われています。オーナーの西川さんにお話を聞くと、テイクアウト用も含めると常に20〜30種類ぐらいのレパートリーがあるようです。メニューは固定されておらず、一週間に一回のペースでフレーバーのラインナップは入れ替わるのだとか。
「味覚をデザインする」ということ
唯一無二でいて、かつ一期一会なジェラートとの出会いにわくわくしながら、最初にいただいたのはこちらの三種類。
セロリ…?苔…?と思いながら食べ進めるのですが、これがもう絶品なのです。セロリの香りと味がしっかりとしてクセになる味なのに、爽やかで後味はとてもすっきり。西川さん曰く、「セロリにフルーツだと同じ味になってしまいますが、セロリシードを使うとコントラストがつきます。なるべくシンプルで、解像度をあげてすっきりしたアイスを作っていきたいんです。」だそう。筆者は食文化にそんなに精通しておりませんので、味のコントラストとか解像度とか言われても正直ピンと来ないのですが、なんだか西川さんのお話は料理というよりもデザインに近いような気がします。(筆者はHOTEL SHE, KYOTOで普段グラフィックデザインをしてたりします。)
山羊のミルクを使ったアイスは濃厚なのにとてもあっさりした後味です。
アジュワンシードをフィレオフィッシュのタルタルに挟んだら美味しいのでは?と思ったのがメニュー開発のきっかけだとか。「アジュワンシードはタイムとよく似ている味わいなので、トマトやジャガイモなんかの野菜とも合うんですよ。もしかして甘みにも合うのでは?と思って試してみたら相性が良かったので、ここにチョコチップを入れてストラクチャテラっぽくしました。」と再び西川さんが目を輝かせながら語られます。ジェラートの話なんですが、なんだか語られている様子がさながら研究者のようです。ストラクチャテラってなんだ?とか思いながら、西川さんにとって、ジェラート作りは単なる料理ではなく研究やクリエイティブに近い作業なんだろうかと、そんなことを感じます。
こちらはジンジャーリリーというお花のジェラートです。ベースをバニラではなくミルクアイスにしているからしっかりとお花の香りが際立つのだとか。
自分では絶対に思い付かない食材の組み合わせをジェラートで味わい、なんだか高級フレンチのコースを食べ終えたような気分でした。一種盛が385円、二種盛が550円(いずれも税込)と、価格もとてもリーズナブルです。
ピカロアイス オーナーの西川さんインタビュー
ジェラートをたっぷり堪能しながら、それぞれのフレーバーに込められた想いや西川さんのこだわりは存分に伝わってきたのですが、改めて、こんなにも創造的で斬新なジェラートを生み出す鬼才に至るまでの、西川さんのこれまでに迫ってみました。
━━改めまして、本日はありがとうございます。少しお話を伺ってもよろしいでしょうか。
西川さん(以下、西川):こちらこそ、ありがとうございます。以前、HOTEL SHE, KYOTOには一度コーヒーを飲みに行ったことがあり、作り込まれた世界観にとても感激した覚えがあります。SHE, のネオンが街の少し廃れた雰囲気と相まってかっこいいと思いました。僕は東九条に住んでいる友達がいるので、HOTEL SHE, KYOTOの周辺はたまに行きますよ。
━━その節はありがとうございました。この斬新なフレーバーはどうやって開発されているのでしょうか。
西川:これとこれを合わせると美味しくなりそうだな、というイメージがたくさん頭の中にあるんですよ。その頭の中にある素材の組み合わせをジェラートに落とし込んでいます。元々カレー屋をやっていたのでスパイスに関する知識はあるし、そもそも料理が好きなので普段から食材の組み合わせは常に考えています。グラフィックのデザイナーなんかと一緒で、僕は味をデザインしているような感じですね。
━━「味をデザイン」。素敵な言葉ですね。確かに、ピカロアイスさんのフレーバーはアートワークを見る感覚に近いような気がします。
西川:僕にとって、ジェラートは表現方法の一つなんです。良い素材を使った、美味しいジェラートっていっぱいあって、特に日本はどこ行ってもご飯が美味しいですよね。僕はどんぐりの背くらべみたいなところでは戦いたくない。圧倒的に強いジェラートが作りたかったんです。そのためには「思想が強い」ことが重要だと思っています。
━━ジェラート屋さんを始められた経緯などをお聞きしても良いでしょうか?
西川:パートナーがドイツ人の映像作家なんですが、ドイツで食べたジェラートに衝撃を受けたことがきっかけです。本当に衝撃でしたよ。(笑)
今まで自分が日本で食べていたアイスクリームは、どちらかというとスッキリするというよりもしっかりとした甘さを楽しむようなものだった。ドイツのジェラートはもっと軽くて、素材の味が自由で突き抜けていたんです。これだ!と思いました。
その後は、ドイツで10年続いている老舗のジェラート屋さんでまず働き始めました。オーナーシェフが怪我をしたことがきっかけで、働き始めて一ヶ月目に一人でお店を回すことになり(笑)、そのうち自分で新しい味を作りたくなってきたんですよ。抹茶にマスカルポーネを合わせたりして自分で創作したものを家族や知り合いに食べてもらってたら、次第に自分のアイスを買いたいと言ってくれる人が出てきたんです。マイスターの資格を取って、色んな飲食店のコースに合うアイスクリームを作り卸しで売るようになりました。
━━口コミで西川さんの創作のすばさしさが広まっていったのですね。元々料理人を志されていたのでしょうか?
西川:僕は元々彫刻を学んでいました。自分の彫刻の先生がフランス料理をやっていたんですが、僕も料理が好きで。僕はどちらかというと料理人としてアイスを作っているというよりは、ジェラートが表現の一環なんです。色んな食材を組み合わせて、足して引いて削って…みたいな工程は、彫刻とよく似ています。
━━今後の展望などがあればお聞きしてもよろしいでしょうか?
西川:"アイスが目的で電車に乗る"みたいな、アイスが一つのカルチャーになればいいなと思ってますね。ジェラートって、機械は高いのに単価が安い。しかも冬という明確な閑散期がある。だから若い人が始めるにはなかなかハードルが高いんです。ピカロアイスのように「なんかわからないけどすごいアイスクリーム見つけたのよ」みたいなお店が増えれば、若い人からの注目も集まって、アイスクリームが一つの面白いカルチャーになるのではないかと思っています。
また、うちは店頭でも販売しているんですが卸しも売上の多くを占めています。主に今はホテルや飲食店向けに。今後はピノみたいなサイズのアイスを作って成城石井みたいなところで売りたいですね。他にも、アイスクリームだけでなく色んな料理をデザインすることにも興味があります。ジャーマンカモミールで出汁を取ったミネストローネとか、すごい良さそうじゃないですか?
━━こういったちょっとした会話の中でサラッと、「ジャーマンカモミールで出汁を取る」というようなことを思いつかれるところに、西川さんの創造力を感じますね。本日は大変貴重なお話をたくさん伺うことができました。ありがとうございました!
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