見出し画像

辻村深月『スロウハイツの神様』について

 前回の『傲慢と善良』に引き続き、辻村深月作品を読んだ。これまたすごく面白かった。

 本作は、藤子不二雄が描いた『まんが道』という漫画に通ずる要素が多い。例えば、トキワ荘のように、1つ屋根の下に作家たちが集い、共同生活を送る点や、それぞれの作家の産みの苦しみを書いているところなどである。本作では、作家といっても多様で、漫画家、脚本家、小説家、映画監督、画家と様々な登場人物がいる。

 前も読んだ『傲慢と善良』でも感じたのだが、辻村深月の小説は、本当に退屈な瞬間がない。常に話が展開していて、目が離せない。まるでバスケットボールの試合のようだと思う。

 自分が特に印象に残ったのは、映画監督を目指している登場人物が、なかなか自分の企画が通らずに葛藤しているときに、「主張したいことなんてねえよ」みたいなことを口にするところだ。そういえば、自分も趣味で音楽を作るが、何を主張したいのかよく考えていない気がする。自分もそんな感じなので気になった(もちろん俺は趣味でやっているので、葛藤を感じるほどではないが)。

 その人物が、物語の終末で映画監督として人気が出てくるのだが、舞台挨拶のインタビューで「テーマは愛です」というのだが、なるほど、確かに全ての創作活動はそれに尽きるのかなと思った。昔、レイジのトム・モレロが、「全ての革命的行為は愛の行為であり、レイジの曲は全てラブソングだ」ということを言っていたが、なんとなく通ずるものがある気がする(違うか?)。

 また、ミステリー要素もあり、これが面白い。主要な登場人物2人の過去が実は繋がっており、現在、そして未来へとリンクしていくような描写があるのだが、読んでいてめちゃくちゃ引き込まれた。そこに至るまでに、たくさんの伏線が張られている。一体どうやったらこんな物語が作れるのか。ものすごく緻密な構成だなと思う。

 最後に、巻末に西尾維新が解説を寄稿しているのだが、これが何気にすごくいい。作家とはいかなる人間かということについての考察が痛快かつ的を得ていると感じる。さらに、様々な創作物から影響を受けて人生を構築していくという点では誰もがクリエイターであるというのも、なんだか納得できる話だなと思った。それを意識して生きているか否かで、生き方が変わってくると思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?