アンコール・ワットのアナログならではのチケット認証UX
ただいま、アンコール・ワットがあるカンボジアの街、シェムリアップに居ます。カンボジアはまだまだ経済発展途中で、時々停電が起きたり、モバイルインターネットも観光地なのに、アンコール遺跡郡のかなりの場所で利用ができません。
さて、そんなアンコール・ワット(を含むアンコール遺跡郡)ですが、世界遺産に登録されている場所は20km四方ほどの広さがあります。ここに数百あるとも言われる遺跡が点在しており、主だった遺跡や道路ではチケットによる認証が必要です。
どのようにチケットの認証を行うか
アンコール遺跡群のチケットは三種類あります。
- 購入日1日限り有効なチケット
- 購入日から10日間のうち、3日使えるチケット
- 購入日から一ヶ月間のうち、7日間使えるチケット
なお、チケットセンターは一か所で、そこが一括してチケットの発行を行っています。また、前述の通り、遺跡群は広大で、またモバイルインターネットも使えないため、以下のような条件があります。
- デジタルでの認証は行えない
- 遺跡が広大なため、限られた場所のみならず、遺跡群のどこでも必要とあらば認証が行われる
- チケットは、その日初めてチケットのチェック場所で「今日分のチケットを使った」ことを記録する。つまり、その日分のチケット認証をすでにしていれば有効かどうかのチェックを行い、まだしていなければその場で認証を完了させる。
- 認証コスト(有効日はあってるか、本人かどうか)、学習コスト(認証する側は簡単にしくみを覚えられるか)、物理的なコスト(道具が必要なら安価か)は低ければ低いほうが良い
これらのチケット条件をよしなに満たすチケットを考えたとき、どのようなチケットを作れば良いでしょうか。ちょっと頭をひねって考えてみましょう。なお、回答はスクロールした先にあります。
ニャック・ポアン周辺の湖。反射する木々が美しい。なおカンボジアには、雨季には最大琵琶湖の10倍の広さになる、東南アジア最大の湖もあり、水資源が豊富。
答えは「①〜(31)まで書かれた認証チケットを作る」でした。二日間だけ使ったチケットがこちらになります。
表側・写真がただのオッサンなのはご容赦…
裏側・円状に①〜のホールが並ぶ
最初にこの仕組みを見たとき、おおっ、よく出来てる!とちょっと驚いてしまいました。認証する側の人は「今日は台紙のどの位置の穴が空いているべきか」「穴が空いてなければ穴あけパンチで該当日を開ける」だけで済みます(もちろん、本人の顔と有効日付内かのチェックも必要ですが。いろいろなサンプルを集めたわけでは無いので、有効日付は台紙のデザインをちょっと工夫するだけ(たとえば11月は緑色とか)で、日付の文字をわざわざ認識しなくても済みそうです)。
そのため、チケットチェックの人は短時間で認証が済み、サクサクと人を通すことができます。また、その日の認証がまだなチケットも、短時間(パンチャーで押すだけ)で済みます。物理的に穴が開くため、利用してない状態に戻す、みたいな改竄もしにくそうでうね。
もし自分がこの事例を知らず、同様なものを考えると「利用した日付を期限をアナログで記載する、時間短縮のために日付が変えられるハンコをつかう」みたいなことをしそうですが、認証時に文字列を読むのに時間がかかったり(特に一か月チケット場合は最大七日分の日付が記載されてしまう)、物理的なコストや耐久性もハンコのほうが低そうです。
ヘルシンキのバスチケットの認証
ちょっと話は変わるのですが、半年前にフィンランドに行った時、ヘルシンキでアプリからデジタル購入したバスチケット(バス利用から一定時間だけ乗り放題)は「時間帯によって色と模様が変わるチケット」になってるようでした。
幾何学模様は可愛くアニメーションしていた
非接触決済やQRコードの決済はたしかに便利なのですが、ハードウェアコストがかかったりと導入の敷居が高い場合もあります。ヘルシンキのシステムは「利用者はアプリで購入して模様を表示」するだけで、システム構築もそれほど難しく無い(=コストが低く開発できる)と思われます。
また認証も、バスの運転手が「この時間はこの模様」と認識だけで済むため、降りるときのチェックも楽そうです(実際は数回乗車しましたが、一度もきちんとしたチェックはされませんでした。ヘルシンキは性善説前提のシステムで成り立っている気もします)。なお、改竄防止のため、模様にアニメーションが入ったり、画面キャプチャが禁止(少なくともAndroidは)になっていました。
この認証はアナログでは無いですが、認証側(運転手)は形と色のパターンを知っていれば良く、デジタル機材が認証側は一切なくてもチェックできるため、よくできてるなぁと思いました。
デジタル、インターネットありきで考えてしまいがち
自分は何か物事を考える時に、今までずっとWebの世界にいたからか、どうしてもデジタル・ネットワークで解決できないかを考えてしまいがちだな、とインターネットがスムーズに繋がらないことも多く、電力供給も安定しない、このカンボジアであたらめて考えさせられました。
日本ではどこでもインターネットにつながるモバイル端末ありきで考えてしまうため、わざわざデジタル化せずに解決できる課題は、デジタル化しなくても良いのだなと。
今回ご紹介した、アンコール遺跡群のアナログチケットUXは、自分が知らなかっただけで、実は昔の日本や世界的に見たら当たり前の方法の一つかもしれません。今は「デジタルにどう解決するか」の事例は、Web上にあちこちあり、実装例も無数にあるため(あのアプリを使ってみれば解決、みたいな)知ることができるのですが、過去広く使われていた、便利なデジタル以外のUX事例も改めて知れると、より発想の幅が広がるのかもしれませんね。
プレループ寺院からの夕暮れ
最後に
本文とは全く関係がありませんが、クメール料理(カンボジア料理)はどれもめちゃウマで、特に牛に肉を甘いタレで味付けし、黒胡椒とライムのソースをつけて食べるロックラックという料理が美味しすぎて毎日食べているのでオススメなので、アンコールワット観光をしたらクメール料理を是非。
クメール料理の一つ、ロックラック🍖
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