【三人組メモ】先生と潜入大作戦2

夜。
誰もいなくなった校門の前で俺たち三人は先生を待っていた。
憂鬱だな…
何でこんなことになったのか。
全部佳一のせいだな。
毎度毎度面倒なことを持ってきやがって…
「おい、慎ちゃん。心の中で言っているつもりだろうが、全部口に出ているぞ」
何だって?
別にいいけどよ。
「先生、まだかな」
拾井が退屈そうに言ったときだった。
「待たせたな」
やっと来た!
…って。
「…誰?」
見たこともない黒髪の女子が仁王立ちしていた。
そこそこ美人である。
「先生ー!遅いー!俺眠いんだけど!」
拾井が子どもみたいなことを言い出す。
先生?…えっ?先生?
「じょ…女子が欲しいわけじゃないって言ってたじゃん!」
「慎ちゃん、動揺しすぎだ」
動揺するわ!
てっきり男子生徒のフリをしてくるとおもっていたのに!
この学校の制服がどうとか言っていたくせに!
「…えっ?まさか高校生のとき女子のふりを…」
「んなわけねぇだろ。はっ倒すぞ」 
「すんません」
…生徒に向かって暴言吐きやがった…
「いくら俺が魔女と言えども、そのまま行くのはまずいだろう…。ここは相手の言う通りにまずすべきだと考えた結果がこれだ」
「そっすか…」
まさか向こうもこの清楚系美少女が30を超えたオッサンだとは思わないだろう…
油断させるにはもってこいかもしれない。
「話はこれくらいにして、そろそろ行くぞ。拾井クン、あれを出しなさい」
「ふぁーい」
あれ?
気の抜けた返事をした拾井が、俺たちに丸いシールのようなものを配った。
何だ?
「こっそり聞き取りくん試作品でーす」
こっそり!?
聞き取りくん!?
それってまさか!
「盗聴器か!?」
「言ってしまえばそういうことでーす」
「何でこんな色をしているんだ?」
「肌の色に合わせた色だよ」
あー!なるほど!
「耳の裏にでも貼ろっかー。もし捕まってもバレないでしょ」
言われた通りに俺たちは耳の裏にシールを貼った。
天才かよ!
これで試作品!?
「すごいじゃないか、拾井君」
「もっと誉めてくれていいんだよ~」
調子に乗るな。と、先生がボソッと言った。
「今回俺は待機せよとのことなので、これでバッチリ盗聴&録音してまーす。あとそれと、これも付けてね」
「…?」
次に渡されたのは…制服のボタン?
「そのボタンは、緊急事態発生のときに押せるようになってるよ。ブレザーのボタンどれかに付けておいてね」
言われた通りにブレザーのボタンを入れ替える。
「押したらどうなるんだ?」
「どうもしないよ。俺が通報するなり何なりするための装置だから。あと…」
ん?
「俺にだけじゃなくて、荒波先生にも緊急通報がいきます」
「おい待て」
即座に反応したのは先生だった。
「どういうつもりだ」
「だって先生、今日のこと荒波先生たちに言ってないんでしょ?」
「言ったらややこしくなるだろうが」
それはただ、先生が言いたくないだけなのでは。
「先生の手に負えないことだって起きるかもしれないよ?そういうときに俺の助けなんかより、大人の助けがいるでしょ?」
確かにな…
「先生、自分が魔女だからって自分の力を過大評価しすぎだよ」
ちょっ…
「拾井…」
とんでもねぇこと言い出したなこいつ!
「もういっぺん言ってみろこの野郎!!!」
あああああ!
キレた!
そりゃキレますよね!
「テメェ人には弟子にしろだのなんだの散々駄々をこねていたくせに、そういうことがよく平気で言えたもんだな!!」
「先生!落ち着こうぜ!」
今にも殴りかからんとしている先生を俺と佳一は必死に取り押さえる。
「そろそろ行かないと遅刻するぞ!行こう!先生!」
「拾井君!サポートよろしく!」
俺たちは先生を引きずって約束の場所へと向かった。
「あいつだけは絶対許さん…」
道中、先生はぶつくさ言っていた。
「慎ちゃん、玖雅先生、俺はあることに気づいてしまったよ」
佳一が歩きながらおもむろに俺たちに言った。
「この緊急通報ボタン…手を縛られたりしたら、押せないな…」
……。
「壱岐君、そんなわかりきったことを口にするんじゃありません」
わかってたんかい!
「手を縛られる前に押せばいいんだろ!」
そんな状況にならないことをまずは願いたいな!

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