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Episode 565 ちがう技術の話です。

「猿も木から落ちる」と言えば、『木登りが上手な猿でも時には誤って木から落ちる…その道にすぐれた者でも、時には失敗することがあるということのたとえ』…なのでして、同じ意味の別表現では「河童の川流れ」や「弘法にも筆の誤り」など、間違いや失敗は誰にでもあるさ…ってことなのでしょう。
でも、自分自身が「得意」と思っていたことで間違えてしまうのは、なかなか悔しいものですよね。
だいたいにして、このようなことわざの裏には悔しさに対しての慰めみたいなニュアンスが隠されているワケですよ。
実は先日、私もこの「ハンカチを噛み締めたくなるような悔しさ」を味わいましてね…。

先日のこと、私はとある研究者さんの調査に参加したのです。
それは「発達障害のある方の空間認知に関する調査研究」と言うもので、発達障害者の空間認知特性に特徴があるのか…という調査だったのです。
私は地図読みや視覚認知に絶対的な自信があってですね、ASDだから「空間認知が強いとか弱いとかではない」という辺りを証明して見せたかったのですよ。
自信満々で調査に参加した私、その調査内容を聞いて冷や汗…コレは拙いかも。

調査内容をカンタンに言うと、テクテクと歩く数分の動画を見て「人に道を教える要領でフリーハンドの地図を描いて!」っていう課題。
因みに動画に映っているのは初めて見る場所で、私に土地勘は全くないのです。
えーっと…結論から言うとね、正確に描けなかったんですよね、地図…ガッカリ。

添付したのは、1年ほど前に書かれたLu(@lunlunsan)さんのnote記事です。
視覚優位と聴覚優位、同時処理と継次処理の違いについて、丁寧に説明されているその記事に、こんな事例が出てきます。

ある時職場の雑談で「出張の時に道に迷うか?」という話になった時にその上司は「僕はダメなんだよねぇ、地下鉄の駅を出た途端方向がわからなくなってしまう」と苦笑気味に話しているのを聞いて、「へえ、男の人でも方向音痴とかあるんだ」と意外に思ったのですが、上司のように言語能力が高く頭からスラスラと論理的に説明できる聴覚優位・言語優位タイプは逆に視覚優位者が得意とする地図を読んだり方向を把握するのが苦手というのはありうることで、視覚優位者である私と話の進め方に度々食い違いが出てしまうのもそのためなのだろうと納得しました。

Luさんの記事に出てくる「上司」は聴覚優位・言語優位の方らしく、物事をひとつずつ順を追って確認したい「継次処理」を好むタイプなのに対して、私はLuさんと同じように情報の全体像を認識してから細部を把握する「同時処理」を好むタイプです。
だからこそ地図読みには絶対的な自信があったのですけどね…。
でも、結果は地図が描けずに撃沈ですよ。
そして気が付いたのです…「地図を読む」と「地図を描く」は違う技術なのだ…ということに。

Luさんの上司の行動の説明は、「僕はダメなんだよねぇ、地下鉄の駅を出た途端方向がわからなくなってしまう」という一言しか書かれていませんから詳細は不明です…が、恐らく地下鉄の駅を出て地上に出たときに「自分の現在地を地図上にプロットできない」という意味だと推察されます。
だから、自分視点で見える目標物を頼りに「右、左…」と道順を追っていくことで目的地に辿り着こうとするのだろうと想像します。
その一方で、私は地下鉄の駅を出て地上に出たときに「自分の現在地を地図上に指定する」ワケです。
自分視点で見える目標物から地図上の自分の現在地を確定して、地図を俯瞰して目的地の方向を割り出すのですよ…これはいつも私がやっている方法なので間違いありません。

今回の調査での内容を振り返ると、土地勘がなく地図もない状態で、一人称視点で歩いて目的地を目指す動画を見て道順を覚えられるか…を問われるワケですよね。
つまり「継次処理で得られた情報を地図に描く技術」ということになるのかなぁ…と。
ところが私は普段、この技術を使っていないのですよ。

正確な地図を視覚情報として取り込み、目的地を確認し、そこまでの道順で目標になる目ぼしいランドマークを指定する…そのベースになる「正確な地図」がないことの心細さは「かなりのもの」だった気がします。
さらに今回の調査で気が付いてことは、私は「順を追うことへの苦手」がある…という事実です。
これは作動記憶の弱さ…という私のWAISの結果にハッキリと現れていることではあったのですけどね。

WAISでの作動記憶の下位検査項目は以下の通り
算数:数学問題を暗算する集中力。(例「1ドルで45セント切手を何枚買えますか?」)
数唱:注意・集中。(順唱例「1-2-3」、逆唱例「3-2-1」)
語音整列:注意と作動記憶。(例「き・4・け・3・か」を、昇順に数字を言い、その次に昇順に発音して下さい→「3・4・か・き・け」)

もうね、これが出来ないから「目に見える部分に特化した」気がしてならないのですよ。

私の「地図読み」で登場するランドマークは、登場する順序を気にしていない気がします。
目的地までの方角でザックリ進み、ランドマークを確認することでその方角が正しいことを確認する…だから、ひとつふたつランドマークが発見できなくてもあまり気にしていないように思います。
得意と思っていた地図が「描けず」に、私は足元の落とし穴をひとつ発見した気がしています。

「発達障害のある方の空間認知に関する調査研究」では、私以外にも多くの方が調査対象になったハズです。
私のようなタイプもいれば、Luさんの上司のようなタイプもいる、そのほかには?
調査の結果、どのようなことが見えてきたのか、私は非常に興味深く楽しみなのです。

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