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230327 念願の川瀬巴水展

川瀬巴水の絵を初めて見たのは、数年前だったと思う。東山魁夷や吉田博が好きであれこれと調べるうち、川瀬巴水に行き着いた。
新版画と呼ばれる、浮世絵の系譜を引き継ぎつつ西洋の美術的観点を取り入れた、新たな版画の表現を開拓した一人だ。存命の頃もアメリカを始めとした欧米でかなり人気を集め、展覧会も数度開かれている。かのスティーブジョブズも彼の作品にほれ込み、いくつかコレクションしていたとのことだ。
そんな巴水だが、以前展覧会が開かれた際足を運ぶことができず、大変に後悔した。そして、次回はそれが日本のどこであろうが必ず訪れようと心に決めていたのが、今回やっと叶った。
しかも、前回吉田博展を開催した、「パラミタミュージアム」である!
(毎回、選ぶセンスが素晴らしい。ミュージアム自体もとても落ち着く空間で、大好きだ。)
やっと作品が見られるのか、と胸を高鳴らせ、朝一からはるばる三重県へと向かう。三重県は感覚よりもかなり遠く、しかも土曜の午前中ということもあり渋滞に引っ掛かって3時間ほど要した。途中雨に降られもしたが、天気の悪い日に美術館に向かうのはとても気分が良い。

いざ、展示室に入ると、膨大な数の版画が並べられていた。
どの作品も、それはもう繊細な色使い、引き込まれるような構図で、のっけから感動してしまう。
代表作である「芝増上寺(東京二十景)」を見たときの感動は一入だった。特に「馬込の月(東京二十景)」は巴水を好きになったきっかけとなった作品であったため、離れるのが惜しくその前からしばらく動けなかった。(見終わった後ももう一度見に戻った。)
後で購入した展覧会パンフレットには、巴水の自身の職業に対し「皆様の目の代わりとなり、風景を絵にしている。見られる方が、あたかもその風景の前に立っているかのように思ってもらえれば、大変満足です」という趣旨の言葉が掲載されていた。要約なので詳しくは調べていただきたいが、まさしくその通りの感想を抱いた。この一瞬の風景に心を打たれ、スケッチしたんだろう。肌に当たる風も、うっすら聴こえる虫の声も、これ以上ないと感じたに違いない。そんな風に思わせてくれる作品ばかりだった。
それに、触りで海外からの人気を集めたという話をしたが、日本人だからこそ感じ入る情緒というものがあるように思う。日本の持つ静かな美しさに共感し圧倒されるあの感覚は、遺伝子レベルで刻み込まれた何かなのではないかとそんな印象を持った。

しかし、写実主義を突き詰めると、その美しさに目を見張るものの、情緒的余白は失われてしまうものなのだなと実感した。バランスが難しいが、はっきりし切らない部分があるからこそ、その間に潜む感情や風景以外の情報を想像をもって補うように思う。私の場合はだけど。

それにしても、写真では伝えられない、風景以上のものが深く感じられる良い展覧会だった。遠路はるばるやってきて本当によかった。



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