見出し画像

「涼宮ハルヒの直観」

〈この文章は2531文字です〉

こんばんは。蛍智宏です。

タイトル通り「涼宮ハルヒの直観」を読み終わりました。発売は11月25日なのですが、積ん読が多いためにこの時期になってしまいました。

が、この本を読むことを楽しみにしていなかったわけではありません。涼宮ハルヒといえば、私が図書館に通い詰めていた小学校高学年から中学生の頃に読み漁っていた作品です。当時、深夜アニメを見たことはないが深夜アニメに憧れていた私にとっては、憧れに近づくことのできる魔法のアイテムのようなものだったのです。今となっては、少し大げさですが。

さて、本の内容に移ります。この本は3章仕立てになっており、それぞれを独立したお話として読むことができます。短編である「あてずっぽナンバーズ」、中編である「七不思議オーバータイム」、長編である「鶴屋さんの挑戦」の3つです。

まず、「あてずっぽナンバーズ」。SOS団の皆で初もうでに行くというエピソードです。余談ですが、第一章が年始のお話ということを知り、それまでに読み終わろうと年末に急いで読み始めました。このお話は1月3日が舞台なので、私はぎりぎり目標を達成できたということです。閑話休題。この「あてずっぽナンバーズ」というタイトルですが、このお話がSOS団の団員・小泉が妙な数字を言うところから始まり、語り手・キョンがその意味するところとは何なのかを考えていくというところにちなんでいると思われます。とはいえ、その数字を推理するところが多く描かれるわけではなく、SOS団のわちゃわちゃしたエピソードの中にヒントが隠れていて、キョンがそれに気づいてしまうというゆる~い感じです。これは、長いブランクの後に読むには、SOS団の雰囲気をそのまま思い出すことができる感じがして、良かったです。

次が、「七不思議オーバータイム」。主人公・涼宮ハルヒが七不思議に興味を持っているということを知ったキョンと小泉が、学校の七不思議を考えるというお話です。実はこの学校には七不思議が存在しないのですが、「無いなら創ればいいじゃない!」と言い出しかねないのがハルヒの性格です。さらに、ハルヒには無自覚ですが願望現実化能力というものがあり、○○な七不思議があればいいのにと思えば、それが突拍子のないものでも実現してしまいます。だからキョンと小泉は、ハルヒがこの学校に七不思議がないことに気づき、ハルヒが理想の七不思議を考え始める前に、七不思議を考えなければいけないというわけです。ここで、学校の七不思議にまつわる物語というのはこの世界には一杯あって、そのうち七不思議を考えようとする作品も多く存在すると思います。が、ここではハルヒの願望現実化能力があることによって、ちょっと違う展開になるのです。ハルヒが願望現実化するかもしれないから、学校のアメニティを強化するような文言を七不思議の中に入れておこうとか、怖いけど実現しても害がでないよう不思議にしておこうとかですね。これによって、よくあるテーマがハルヒ色になっているのではないでしょうか。

最後に、「鶴屋さんの挑戦」。

これがとにかく面白かったです。ハルヒたちの先輩・鶴屋さんから、謎解きの挑戦状が届きます。普通に読むとただの鶴屋さんの思い出エピソードなのですが、実は叙述トリックを使った文章で、その文章の中の違和感からSOS団の面々と遊びに来ていたオカルト研究会員のTで謎を解いていきます。一つ文章が送られてきて、それを解く。するともう一つ文章が送られてきて、それも解く。さらに一つ文章が送られてきて、それもまた解く。このような単純な流れなのですが、推理シーンでは各キャラクターらしさが見えるセリフがあったり、前の謎解きを踏まえての一段階上の謎解きのシーンもあるなど、引き込まれました。さらには、3つ謎が解けた後にも「何かあるぞ感」を出してハラハラさせてくれます。この「何かあるぞ感」は、キョンが心内語として「何かにひっかかる」「正体が分からないのが気持ち悪い」などと言っていることから来る感覚なのですが、この心内語が何回も出てくることによって読者の私も何かに引っかかってきたところがこのお話のすごいところかなと思います。そして、このお話はこのお話自体が持つ違和感を基にこのお話全体のからくりをする解決をするというかたちで終わっています。

ここで、このお話の冒頭では小泉、T、文芸部員・長門の3人で、推理小説談義をしているシーンから始まります。このシーンでは、お気に入りの推理小説の話に始まり、推理小説における「読者への挑戦状」に関わる話で終わります。その中で、「挑戦状付き本格ミステリが作者と読者の知的遊戯」であるからと言って、「ページの途中で作者が出てきて、メタレベルからの意見表明をすると、どうしても没入感が削がれてしまう」と言うセリフがあります。そしてこのお話は、キョンが作中で解決させなかった違和感を明示し、キョンの憶測を少しのぞかせて終わります。これは、読者への挑戦状めいたものではないでしょうか。この真意は分かりませんが、作者の谷川流さんがご本人とキョンを同一視したうえで、作者の代わりに語り手が読者への挑戦状をたたきつけると没入感は削がれにくいのではないかという試みだったのではないかと思いました。(本当にこの本意は分かりません。最初のシーンでは、一人称や三人称についてのお話もしているのですが、自分には理解しきれなかったため無視しています。でもこの部分も含めて考察すると、新たな発見がありそうです。)

そして、「あとがき」です。谷川流さんは、この「鶴屋さんの挑戦」について「一度やってみたかったことをまとめてやってみました」という風におっしゃっています。自分のやりたいことを詰め込んで他人を楽しませていること、複雑なお話を軽快にまとめていること、本当にすごいと思いました。最近、文章を勉強し始め、自分の文章力の無さを痛感しているからか、プロのすごさを改めて強く感じる作品となりました。

それでは、改めて文章力をあげようと思ったところで、終わりにしようと思います。

ここまで読んでくださって、ありがとうございました。

この記事が参加している募集

#読書感想文

187,854件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?