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まちづくりにファイナンスを活かす⑪~投資ファンドの実務で感じること~

この1か月、ほぼ古巣に戻ったかのような仕事をしています。
実は、とある外資系不動産投資ファンドの物件取得業務を受けており、恐らく1月末にはclosingを迎えるはず、という感じです。やっとnoteを書く余裕も出てきたので、不動産投資ファンドの実務について少し書き記しておきたいと思います。

物件取得業務は時間との闘い!

投資ファンドの業務は、取得するものが企業なのか、不動産なのかの違いはあるにせよ、基本的に時間との戦いです。というのも、多くの場合はclosing日時が決まっており、これを変更することが難しいケースが多いからです。事業会社の場合には決算時期、J-REITだと公募増資のタイミング、私募ファンドでも箱となるSPCの投資家の都合など、様々な要因で期限が決まってしまっています。
なので社員個人の都合は二の次で、取得時期と物件候補が決まったら、あとは走り続けるだけ、という形になります。
なので、スケジューリングはとても重要です。

余裕あったはずなのに…。

ファンド実務に携わったことのある方ならば、ああそうだったよな、と思っていただけると思います。最初のうちはスケジュールよりも先に走っているぐらいの余裕があったはずなのに、いつのまにか余裕なく深夜まで一人作業している状態になっていくという。
不動産ファンドの場合、多くはDD(Due Delligence;不動産調査)によって発覚した法的な不適合や建物の問題点などの治癒に膨大な時間を割くことがあります。単純に調査して発覚して、そして是正という流れなら良いのですが、DDの最後になって発覚するとかそういうことが起きるんですよね…。

ファンド経験者は、個人個人でこういう失敗談を多く持っていると思います。当方の場合は、”冬の札幌で不動産は買うな”というのが残っています。
冬の札幌は恐ろしく寒いですし、雪も積もっているので、どうしても屋外や屋上の物件調査はおざなりになってしまいます。それで何もなければよいのですが、実は境界鋲(敷地の境界を表す鋲)がなかったり、実は越境していたり、みたいなことが後でわかったりする、というケースがありました。
ファンド業務といっても、デスクワークで完結することはほぼなくて、こういった屋外での地道な調査業務によって成り立っています。
不動産は、往々にして何か問題があるケースが多い(隣地との境界が確定していない、基準法上の問題がある、賃貸借面積が実態に合っていない、テナントの使い方に問題がある、等々)なので、これが発覚していくと治癒・是正にどんどん時間を取られていきます。。。

取得価格が希望価格に届かない・・・届かない・

重要な業務として、Valuation算定というのがあります。その物件をいくらで購入しますよ、という計算ですね。これ自体は四則演算ぐらいしか使いませんので、それほど難易度が高いわけではないんですが、アセットマネジャーとして保守目な数字を入れると、ほぼ売主側の売買価格に合わないことになります。
そこからが問題です。

稼働率をどうやって上げていくか、賃料は普通借家契約なのに上げることができるのか?、このなかでコスト削減余地があるものはないか?、それこそすべてのエビデンス資料をあたりながら、可能性を探っていく作業です。
大体、この作業を深夜やっているので、だんだんPCのエクセルに対して一人でつぶやいているという、アブない状況なっていきます…。
収入と支出、そしてアップサイドシナリオのスケジュール、様々な変数があるので、これをいかにロジック立てて、現実的にあり得るシナリオに仕立てていくか、というのが大変だったりします。

もちろん、エクセルの計算間違いも恐怖です。どうしても行数を増やしていくとsumの指定範囲がずれていたりとか、引用する数が異なっているとか、いろんなことが起きます。下手に関数知っている人が作ると、その人にしか理解できない複雑な関数(IF文が複数にわたって展開するなど…)になって、とてもじゃないけど触りたくない…みたいなことが起きます。この、エクセルが招いた悲劇はいろんなところで起きます。えぇ、AGUSに代わる、良いvaluationソフトを期待しております。

ValuationからのDocumentationで体力が削られていくよ…。

ここまでで、対外残業時間が100時間近くになっています。。。毎日午前様のあなた、お疲れ様ですね。
ただ、実はここからが勝負なのです。ある程度Valuationを算定して、ファンドに組み込んでもワークするとなったら、そこから売主⇔買主、SPC組成や投資家、そしてレンダーとのドキュメンテーションやファイナンス条件の調整に入っていきます。
売買契約においては、できるだけ物件の価値担保や契約解除条項、そして表明保証を回避したい売主と、投資家とのコミット上、できるだけ逃げられるようにしておきたい買主との攻防がドキュメントの中で喧嘩状態で走ります。
あまり激しくなると、コメントを目立たせるために使うカラーがなくなる(これをレインボー状態と揶揄しますが…)こともあり、かなりの神経戦になります。
アセットマネジャー(以下、AM)は、この売買契約の攻防を繰り返しつつ、同時並行でレンダーや投資家とトリガー条件(万一、物件の価値が落ちた時に強制売却や金利が上がるような条件)についてドキュメント上で議論を繰り広げていきます。ここも、できるだけAM側を縛りたいレンダーと、自分たちの自主決定範囲を取りたいAMとのせめぎあいが展開していきます。(このときは、あの大手行のATM使いたくないなーとか思ったりしますね。。。)
このあたりに来ると、本と毎日がクタクタです。。。ちょっと人間不信になりながら、ドキュメンテーションへのコメントバック、リーガルへのコメント展開、ときにはリーガルからのコメントがきつすぎて、ビジネスジャッジで何とかならないかと押し返してみたり…。気づいたら午前2-3時ということも。

当日の資金移動を整理しながら、製本と捺印をし続けるクロージング前…

ドキュメント上での喧嘩もひと段落してくると、メールは「これにてsemifinal化します」をひたすら打ち込む状況に突入します。終わりが見えてきましたが、こっからは図画工作のお時間。ひたすら打ち出して製本、という時間になります。
いや、もう電子契約が本格化しているはずなのに、なぜか不動産ファンドはいまだに紙製本が一般的。大手行がどこも電子契約の本格化に取り組んでいないという理由もあるのですが、、、にしてもこの能力はどこで生かされるんだろう、といつも思います。(自分も、結構テープ製本は得意です…)

そして、バイク便を急かして、都内をバイク便で埋め尽くし、契約の充足に必要となる謄本や印鑑証明、そして法的な事前手続き(これが重要、とくに資産流動化計画変更はスケジュールがガチガチです。関東財務局、かなりいい性格していますので要注意。)
充足資料が足りないとローン実行できませんので、細心の注意が必要になります。これも結構のプレッシャー、なぜ謄本を24時間とれる法務局がないんだろう、と恨みたくなります。

すべてが終わってクロージング日。

ほとんど記憶ないですね…。でも、ここで寝ているわけにはいかないのです。事前に作成した振込伝票は間違っていなかったか・?、決済会場は妙な緊張感に包まれています。月末だと資金移動にも時間がかかり、何もしない時間が続きます。雑談もさして盛り上がらず…、じっとする時間です。
「着金確認できました!」
その一言で終わり!としたいのですが、まだ確定日付を取りに行くというタスクが残っています。これまた17時までに取りに行かないと、その日の確定日付は取れないという…。何の意味があるんだろうと思いながら、決済会場に近い公証人役場へ走るわけです。

疲労感と達成感…そして次のディールが始まる…

無事、ディールが終わっても追加精算やポスクロ事項(引き渡しまでに間に合わなかったことを後回しにする)対応があって、意外と暇になりません。そうこうしているうちに、あなたの会社のボスは新しい案件を見つけているかもしれません。そうなると、また簡易バリューからのDD調査という業務が始まってきて、、、そうなるといよいよまた突入か、となります。

何でこんなことやってんだろう、と思われるかもしれませんが、ある種の快楽がアクイジションってあるんですよね。第一線のプロフェッショナルと相まみえながら、一つの目標に向かって走っていくという、ものすごい成長感を感じる仕事ではあります。
ただ、ちょっとくたびれますが。

そろそろ、まちづくりの仕事に戻ろうかと思います。
自分、おつかれさま。


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