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”振り飛車”の序盤戦/将棋


<実践編> ”振り飛車”の序盤戦

本記事では、前回で概要だけ触れた”振り飛車”戦法の具体的な対局例をみていきたい。今回は、相手が”居飛車”戦法を採ってきた場合の"居飛車"vs”振り飛車”の戦いについて考える。また、先手の"振り飛車"は、最も人気の高い「四間飛車」を選択する。「四間飛車」の歴史は古く、現存する最古の棋譜に記されていることでも有名であるが、現代でもその戦法は人口に膾炙しており、幅広い層に通ずるものとなっているのである。

”振り飛車”では、初手に2七の歩兵を突くのではなく、☗7六歩と角道を開けるのが基本である。仮に2七の歩兵を突いて、☗2六歩とすると、”居飛車”の戦法となる。

角道を開けて”振り飛車”を選択する

対して、後手は☖3四歩とこちらも角道を開ける手を指してきた。ここでは、角交換も可能であるが、角行を持ち駒にすると角行を打つという選択肢が生まれ、さまざまなところに打つという可能性まで考慮しなければならなくなり、複雑な変化になりやすい。逆もまた然りであり、相手も角行を持ち駒にすることで、いきなり思わぬところに角行を打たれて厳しい盤面を作られてしまうこともある。そのため、角交換を避ける意図を含めて、こちらは☗6六歩と歩兵を突いた。もちろん、角交換も立派な定跡のひとつではある。

<第1図>

<第1図>から、☖8四歩→☗6八飛→☖8五歩と進行し、先手は「四間飛車」の位置に飛車を振る。一方、相手は完全に”居飛車”を選択したようである。飛車の前の歩兵を突く手は一般的に”居飛車”の合図である。ここまでで、<第2図>であるが、この盤面で、後手は次に☖8六歩とさらに歩兵を突いて歩兵の交換を狙っている。

<第2図>

”振り飛車”を指すうえで、大事な手が、☗7七角と角行を上げる一手である。角行を上げることで、8六のマスに利きを増やすことができる。先手が歩兵と角行、後手が歩兵と飛車のそれぞれ2回ずつの攻撃になるので、仮に後手が歩兵の交換を狙ってきても、守り切ることが可能である。

”振り飛車”のときは、「☖8五歩には☗7七角で受ける」が重要なポイントである。

<第3図>

<第3図>の盤面から、☖6二銀→☗7八銀と互いに飛車側の銀将を動かして、攻めの陣形を整える。攻めの手を一通り指したら次は当然、玉将を囲う手を指していくことになる。

ここから玉将を囲っていく

”振り飛車”での「囲い」

”振り飛車”において、玉将は飛車を振った側と反対側、つまり、右側に囲うのが原則となる。飛車のいる場所が攻めの最前線となるので、玉将は可能な限りそこから遠ざけるように配置する。極端な例ではあるが、飛車側に玉将を配置してしまうと、<第4図>のように、王手飛車取りということもあり得る。”居飛車”の場合に、玉将を左側に囲ったのも同じ理由からである。

<第4図>

そこで、矢倉に囲うことを狙う後手の☖3二金に対して、先手は☗4八玉と玉将を動かすのが良い手である。なお、後手はこの場合、”振り飛車”相手には舟囲いをするのが一般的であったが、本譜では金矢倉囲いを選択した。<第3図>から、銀将を互いに動かした後、以下の手順で進む。

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☖3二金 ☗4八玉 ☖4一玉 ☗3八銀
☖4二銀 ☗3九玉 ☖5二金 ☗2八玉
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<第5図>

<第5図>で、先手は2八のマスに玉将を入城させて、片美濃囲いが成立した。先手は玉将と右の銀将を動かしただけであるが、これも立派な囲いである。<第5図>から、☖3三銀→☗1六歩→☖1四歩と進んだ。”振り飛車”を指すときは、端歩を突いておくのが良い。端歩を突くことで、玉将の逃げ道が広がり、その分だけ詰みにくくなるのである。後手は金矢倉囲いを組み上げるのにまだ少し時間がかかりそうなところが難点である。

<第6図>

先手は片美濃囲いから、☗5八金左と美濃囲いに変化させ、より囲いを強固なものとする手も存在するが、ここでは、後手の囲いが遅れていることもあり、積極的に攻めを狙ってみる手筋を考える。

<第7図>

<第6図>から、☗6七銀→☖4四歩→☗6五歩と角道の歩兵を突くのがポイントである。先ほどは角交換をされてしまう配置であったため、6六のマスの歩兵を突くことができずにいたが、このタイミングであれば、後手の角道が止まっているため、安全に6五のマスへ歩兵を突くことができる。角交換されないときに6五と歩兵を突くのも重要である。

<第7図>から、後手は引き続き金矢倉囲いを目指して、☖4三金右とし、後は玉将を2二のマスに入城させることができれば、囲いが成立するところまできた。

一方で、先手は☗6六銀と銀将を前に出して、棒銀のように積極的な攻めの姿勢を見せるスタートとなった。

<第8図>

まとめ

ここまでで、”振り飛車”vs”居飛車”の序盤戦の例をみてみた。両者に共通している点は、攻めの陣形を整えた後に、玉将を安全な位置へと囲うという手順である。本譜では、”振り飛車”は片美濃囲いに、”居飛車”は金矢倉囲いに組み上げたが、重要なのは、飛車と反対側に玉将を囲うということである。

次回の記事では、ここからの展開として中盤戦をみていきたい。中盤では、”居飛車”の囲いが遅れたことにより、”振り飛車”が猛威を振るうこととなる。

              ―B.―

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