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[看護師採用サイトをつくる①]採用ウェブサイトは何のためにある?

採用視点で見る残念な病院ホームページ

突然ですが、自院のホームページが次に該当するようでしたら見直しが必要かもしれません。

  • 「急募」の求人情報が載り続けている。

  • 募集要項にハローワークとまったく同じ内容を載せている。

  • 退職者の写真が載っている。特に掲載承諾も得ていない。

  • 学生・求職者向け情報と患者向けの情報が混在している。

  • どうやって応募するのかわかりにくい。採用担当者を明記していない。

  • 良い面だけを載せて夢のような職場に見られようとしている。

当てはまるものはありましたか? 「何が残念なのか?」という疑問を持つ方もいらっしゃれば、「わかってはいるのだけど……」と改善の突破口を見出だせない採用ご担当者もいらっしゃるかもしれません。そういった病院はたくさんあります。ただ求職者は採用担当者の「ホームページまで手が回らない!」といった事情を汲んで入職したい病院を選ぶわけではなく、しっかりと採用情報を発信しているところ、あるいはデザインも整ったホームページをご覧になって心を決めるはずです。よいホームページを作って、(できれば他院よりも)有望なスタッフを集めましょうというのがこの連載の狙いです。

ネットと採用情報の関係をおさらい

一昔前は求人情報の王道といえば、求人情報誌や新聞折り込みチラシでしたが、インターネットと携帯電話の利用者数増加を背景にして、スマートフォンが爆発的に普及しました。それ以降、「ネットで仕事を探す」「ネットで人材を探す」のがスタンダードになり、今や紙媒体の求人情報業界は斜陽産業です。国家資格を持つ医療職の採用であってもそれは例外ではなく、職種に特化したネット求人サイトが全国規模、あるいはエリア限定で乱立する事態になっています。求人にはネット活用が必須の時代になりました。

そのネットへの移行と時を同じくして、入院基本料加算の見直しで看護師人材の確保は競争激化しはじめました。コロナ禍で学校訪問もインターンも止めざるを得なかった病院も多く、SNSや動画などネットを駆使した採用が本格化しました。看護学校の定員割れも人材確保の困難化、人材紹介ビジネスの介入で人材確保コストが高騰化と事態は混沌としています。

前置きが長くなりましたが、そういった採用市場(新卒・中途・転職・復職も)にあって、自院の採用力が強く求められる時代になっています。学校訪問や独自のルートで確保できる、あるいは知名度が高い病院では事情が異なるかもしれませんが、求職者や看護学生がネットで入職先を検索したときに貴院のホームページが興味関心を高めるものでなければ、採用市場で戦えない状況です。冒頭のリストはその逆に作用するもので、該当するものがあったとしたら要注意です。

この連載が目指すもの

冒頭で「できれば他院よりも有望なスタッフを集めましょう」とは申しましたが、残念ながら優秀な学生・求職者のエントリーが殺到するような採用方法を私は存じ上げません。ホームページが充実しても「学校訪問が不要になる」「各地で開催される合同説明会も出展しなくてよい」とはなりません。(ないこともないのですが、それを実現するには金銭的にも人的に相応の投資が必要で、特に状況が厳しい中小病院では実現が難しいのです。)
私からは採用ホームページを作る上で考えるべきこと、見落としがちな注意点をお伝えします。この連載が終わるころには、たとえ診療報酬が変わって、採用計画が変わっても、ネットでの看護師採用活動をアセスメントして、実行に移す考え方が身につくようになります。

「採用ホームページは何のためにあるのか」

ひとことで言えば「病院ホームページで求職者にとって情報量が足りないから」です。とはいえ、法人や病院ホームページの中に求職者向けページを作り募集要項を載せることは珍しくもなく、むしろそのようにされている病院が主流だろうと思います。
いま一度「ホームページの目的」を考えてみましょう。病院ホームページをご覧になる方はその多くが患者やご家族など「病院で医療を受ける方」で、整然として、シンプルな作りが好まれます。私も長らく病院ホームページに携わってきましたが、やはり「わかりやすさ」が最重要です。
他方、病院で働きたい方々は受療に関する情報を知りたいわけではありません。「生計を立てる収入を得るに相応しい職場か」「キャリアプランが実現できるか」「いかに医療に貢献し役に立てるか」といった患者とはまったく異なる基準で病院を見定めます。できるだけ自分が持つ”価値観”に近い病院がないかと比較・検討します。病院や看護部は求職者から“品定め”を受ける側です。

採用情報を必要とする人・必要としない人

みなさんは、企業や製品・サービスのホームページをご覧になっても、採用情報は目にしないのではないでしょうか。商品の特長や価格が知りたい人にとって、どんな職種が募集されているかは不要な情報です。ノイズです。ホームページは、見る人の目的に合わせて作られ、目的のページにたどり着けるように設計されています。病院のホームページも患者と求職者ではそれぞれ見るべき・求める情報は違いますから、明確にわけるべきです。

一般の企業でも採用ホームページは別に作られ、企業イメージや働くスタッフの魅力が最大限に伝わるよう、一般向けのページとはまったく別のデザインで作られることは珍しくありません。新卒採用であれば、病院ホームページのどの年代でも読みやすい控えめな表現とは対象的な、たとえばイラストを多用したり、アクティブなイメージの動きや色を用いたり、より求職者の興味関心を誘うデザインや世界観を作り込みます。「医療機関だから……」と敬遠されてきた多彩な表現も使われているのが昨今の採用ホームページのトレンドです。

さて、では求職者の人気とりのような楽しく面白いホームページが必要かというとそうではありません。特に新卒採用を重視しない病院では、若い層にウケるデザインよりも、転職先として魅力ある待遇や環境をアピールした方が、求職者にググっと刺さるはずです。つまりどんな人材に来てほしいかによって、ホームページの内容は変わります。他院を真似ても成果がイマイチなのはこのためです。

採用計画がなければホームページは作れない

結局は看護部がほしい人物像・人材像が定まってなければなりません。あるいはその前提となる経営方針・計画があり、その計画達成に必要な業務が設定され、その業務を遂行するのに必要な人が決まり、その人が不足・必要ならば求人する構造になっています。場合によっては、看護部長や経営幹部の号令でとりあえず採用、という流れもあるかもしれません。もし看護部門で主体的に動けるのであれば、ぜひ人物像・人材像をはっきりと定めてください。必然的に用意すべきホームページが決まってくるものなのです。ホームページに何が必要かわからないのは「ネットに疎いから」だけではなく、院内部門内で採用計画が決まっていないことは珍しくありません。

採用計画の立て方を本稿で論じることはできませんが、最終的には次のように必要な人材のイメージが固まっていくものと思います。

①高等学校卒業をして看護専門学校へ進学。社会人経験もないが、教育プログラムを活用して最前線で活躍。病院の急性期医療を支えてもらいたい。

②出産を機に現在の病院を離れ、子育てとの両立を図りやすい、あるいはその理解がある病院を選びたいと思っている子育て世代の看護師を採用したい。

③精神科病棟なので体力的にも安心できる男性看護師を採用したい。病棟の特性上、バリバリにスキルアップしたい人はミスマッチかもしれない。

このような対象とすべき人材像を「ターゲット」あるいは「ペルソナ」といいます。マーケティングでよく使われることばです。つまり「どういう人の採用を狙いたいか」を表しています。①のような新卒となれば、プリセプティー・プリセプター制度や段階的なトレーニングプログラム、あるいはそれを実施する人的な余裕がなければなりません。②ならば同じ境遇のママさんナースが大勢所属しているとか、24時間対応の院内保育施設があるとか、実績や設備が必要です。③は先輩の男性看護師が多く所属していて孤立しない、女性看護師から男性看護師への期待や感謝のインタビューなど職場の受け入れ雰囲気などが気にされるポイントなので、ホームページで手厚い情報提供をするべきなど見通しが立てやすくなるわけです。

一方「気配り・目配りができて、そつなく何でもこなせる明るくやる気がある人」のような人物像を作ったとしましょう。そんな人はどこでもほしいので、もっとも良い条件の病院を勤務先に選ぶでしょうし、自院の職員にその条件が合致する完璧な人材がいるか考えると、あまり意味を持たないターゲットであることがおわかりかと思います。実在する・実在しそうな人でなければ意味がありません。

まとめ

難しい課題ですが「自組織がどうしたいか・どうあるべきか」が大事で、その結果が採用活動に反映されるものと思います。いきなりホームページを作りたいとシステム部門に声がけしたり、業者を呼び寄せたりせずに「どんな人が必要?」「ターゲットとするのは誰?」という自問から始めるのが確実な一歩です。これが人の集まるホームページに繋がります。

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