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気球で金星の大気を観測! 北海道大樹町で行われている大気球実験

皆さんは、宇宙の実験に使われるものといえば何を思い浮かべますか?ロケット?それとも人工衛星?実はロケットや人工衛星以外にも宇宙実験を行う
方法があるのです。それが大気球です。

高度は飛行機の3〜4倍 ロケットより安価に実験可能

実験に使う大気球は、熱気球と比べてフィルムが薄く、軽く作られているので、飛行機の3〜4 倍の高度まで上がります。大気球の高度世界記録は2013年にJAXAが大樹町で記録した、53.7kmです。高度100km以上の宇宙空間まで到達することはできませんが、限りなく宇宙に近い場所へ到達でき、 ロケットより安価に実験を行うことができます。
1971年から2007年まで、大気球実験は岩手県大船渡市の三陸大気球研究所で行われていました。しかし、観測機器や気球の大型化に伴って広い放球場が必要となったため、2007年に大樹町が移転先に選ばれました。
大樹町では、4階建ての大気球指令管制塔、気球を放球するための460mのレール(スライダー放球装置)等を建設し、準備万端で初めての実験の日を迎えました。

左が格納庫、右が大気球指令管制棟
写真:
https://www.isas.jaxa.jp/about/facilities/taiki.html

初めての実験は2008年8月23日に行われました。科学的要素を盛り込まず、放球、管制、回収の一連の作業を確認する実験で、成功によって大樹町での運用方法を確立しました。
翌年の2009年からはいよいよ科学的要素を含んだ実験も始まりました。実験の分野は、宇宙線物理学、赤外線天文学、高エネルギー宇宙物理学、超高層大気物理学、宇宙生物学など様々です。

宇宙の暗黒物質や大気中のオゾンを観測

2009年6月には、空気の影響の少ない場所まで大気球を上げ、望遠鏡を使って金星の大気の観測を行う実験が行われました。 金星の大気はほとんどが温室効果ガスなので、地球温暖化の研究に役立ちます。同年8月には、高エネルギー電子・陽子の観測を通して宇宙空間の正体不明な暗黒物質の謎に迫る実験や、飛行体が宇宙から地球の大気圏に突入する際に受ける熱を減らすための技術開発を行いました。
2010年9月には、大気中のオゾンのデータを取得する実験を行いました。オゾンは有害な紫外線から地球を守ってくれる働きがあるため、私たちの生活や健康にも関わりのある実験です。
科学的な実験だけでなく、大気球自体の性能を高めるための実験も行われました。2011年6月には、長時間の滞空が可能な「タンデム気球」の研究開発を目的にした実験が行われました。タンデム気球は、気温差により、昼夜で別の高度に移動するという特徴を持つ大気球で、複数の高度での科学観測を行いたい研究者にとって利点があります。

高度世界記録53.7kmは大樹町で達成

また、2011年9月には世界で最も薄い気球用フィルムで製作した「超薄膜高高度気球」の実験が行われました。気球開発では、より重いものを、より高く、より長時間飛ばすことを目指しており、「超薄膜高高度気球」は、2.8マイクロメートル(1000分の2.8ミリ)の薄いフィルムを使って気球自体の軽量化を図った気球です。高度55kmを目指しましたが、高度14.7kmでフィルムが破れてしま い、残念ながら実験成功とはなりませんでした。
その後、2年後の2013年9月に再び同じ実験を行ったところ、見事実験は成功
し、高度53.7kmに到達!高度世界記録を更新しました。

スライダー放球装置と大気球

2014年8月には高度40キロの上空から気球につなげた実験機器を落下させ、無重力状態で火がどのように燃え広がるかを観察する実験を行いました。
大樹町で行われている科学実験の中には、「上空でそんな実験が!?」と思うような意外な実験もあります。2016年以降定期的に行われている、成層圏における微生物捕獲実験です。気球から切り離された微生物採集装置がパラシュートで降下する間に微生物採取を行います。大気上部に存在する生物の種類やその分布を明らかにすることは、地球生物圏の上端がどのように なっているのかを知る上でとても重要な知見となるのです。
大気球実験は現在も継続して行われています。今年2022年は、6月にバラスト(気球の重りの砂袋)の量が気球の構造設計に与える影響を緩和する為の、新しいバラスト搭載方法の開発のための実験が行われていました。
2008年から2022年現在までの14年間にわたる大樹町での主な実験の一部を年表にまとめました。

一言で宇宙実験と言っても、地球上の問題解決に役立つもの、宇宙の謎を解明するためのもの、大気球の性能向上に役立つものなど、様々な分野の実験が行われていることが分かりま す。宇宙実験といえば、ロケットや人工衛星が連想されがちですが、ぜひ大気球実験にも注目してみてください。
また、実際に大気球実験が行われる場所を見てみたいと思った方、大樹航空宇宙実験場は、無料で見学が可能です。実験場の隣にある大樹町宇宙交流センター「SORA」には大気球の模型や大気球実験に関するパネル展示があり、大気球実験について楽しく学ぶことができます(夏季・土日祝のみの営業です)。
見学について、詳しくはこちらのページをご確認ください。
https://www.jaxa.jp/projects/pr/brochure/files/centers17.pdf https://www.town.taiki.hokkaido.jp/soshiki/kikaku/uchu/sora.html

大気球に使われている技術や実験の詳しい内容が知りたい方は以下のページもチェックしてみてください!!

JAXA宇宙科学研究所/大気球
https://www.isas.jaxa.jp/missions/balloons/
JAXA/科学観測用大気球とは

※メイン写真は大樹町役場提供

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