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【北海道宇宙サミット2023・全文掲載】宇宙×一次産業:衛星データが変革する農林漁業の生産現場(Session3)

2023年10月12日に行われた日本最大級の宇宙ビジネスカンファレンス「北海道宇宙サミット2023」の様子をお届けします。

“宇宙を動かせ。”をテーマに3回目の開催となる今回は、日本が再び成長するための戦略や宇宙ビジネスが私たちの生活や仕事をどのように変えていくのか、より具体的な未来像について産学官のフロントランナーたちによる議論が交わされました。

今回は、一次産業に貢献する衛星データの現状と今後の取り組みについて議論が繰り広げられるSession3「宇宙×一次産業:衛星データが変革する農林漁業の生産現場」で語られた内容を全文掲載します。

登壇者
榎本 麗美 氏(宇宙キャスター® / JAXA研究開発プログラムJ-SPARCナビゲーター / 一般社団法人そらビ 代表理事 / YAC東京日本橋分団 分団長)
齊藤 誠一 氏(株式会社グリーン&ライフ・イノベーション 研究開発フェロー)
櫻庭 康人 氏(株式会社天地人 代表取締役)
高橋 幸弘 氏(北海道大学大学院理学研究員 教授)
前塚 研二 氏(十勝農業協同組合連合会 農産部 農産課 課長)
小川 ひかり 氏(十勝農業協同組合連合会 農産部 農産課)

一次産業に貢献する人工衛星データ

榎本氏:
登壇者である衛星データに関わっている皆さんは、それぞれ違う視点から関わっていらっしゃいますので、簡単に私からご説明させていただきます。
北海道大学の高橋先生には、業界の全体像をお話いただきたいと思います。 
齊藤さんは海洋資源継続学の第一人者ということで、水産学のスペシャリストとして漁業のお話をしていただきます。
前塚さんは、先進的で持続可能な農業を目指している組織の方ですので、現場の農業の視点をお願いいたします。
櫻庭さんは唯一サービス提供側の立場でいらっしゃるということで、現場の声対櫻庭さん、サービスを作る人という座組みです。

1つ目のテーマに参りましょう。
「一次産業に貢献する人工衛星データ」と題し、お一人ずつお取り組みや、どのように衛星データ活用をされているかなどをお話しいただけたらと思います。
まずは高橋さん、お願いできますか。

高橋氏:
私たちが作っている衛星は大きさが50キログラムで、従来の数百キログラムや数トンに比べるとはるかに小さく、わずか1、2年で作ることができます。
普通は、JAXAのものだと思いついてから大体10年以上かかります。
加えて、コストが100分の1。そして、意外かもしれませんが、1枚あたりの画像の値段はドローンを使う場合と比べて大体1000分の1ぐらいで抑えられます。それでも元が取れます。
それに付加価値をつけて儲けましょうという話もするし、役に立つこともたくさんできます。

私たちの衛星は観測できる波長数が世界最多で、600色で撮ることができる。NASAにもJAXAにもこういう衛星はありません。
しかも衛星を好きな方向に自由自在に向けることができます。
スタッフが観測している最中の写真が出ていますがですが、好きな方向に1、2分で向けることができます。
なので、1つの衛星が今までの衛星の10倍から20倍をカバーします。
従来、2週間に1回ぐらい見に来る衛星が多いのですが、我々は世界どこでも1日以内に見に行くことができます。

大事なことは色を見ることです。
画像の左側がドローンで観測した場合ですが、1番上が稲です。次がオイルパームという病気。それから1番下が牧草の種類を見分ける。
プロの人が目の前の草を見ても分からないのですが、色を正確に見ることで判定できる。
従来の方法だと、稲の収穫量との相関は、頑張っても0.5ぐらいなのです。 0.5というのは似ているという程度なのです。それをスペクトルといって、特定の色を取り出してくるとその精度が飛躍的に上がります。相関係数が0.9とかになります。
それから病気の木を見分けることができる。病気と木の種類がわかる。
画像右側は実際に衛星で観測したものですが、フィリピンのバナナは年6%病害で減り続けています。
10年で半分ぐらいになってしまったのですが、それを宇宙から病害地域を特定することに世界で初めて成功しました。
さらに海洋汚染も見ることができます。

こちらの画面は気象の応用です。
左側は地上観測ですが、地上観測を色々と組み合わせて危険な積乱雲、つまりゲリラ豪雨や線状降水帯を見つけ、その後は衛星にバトンタッチして精密な絵を作ります。
従来の何十億円もするような地上レーダーではできないような精密な雲の画像を作ることができます。
これによって台風の予測や線状降水帯の予測が飛躍的に上げられると考えています。

人工衛星のカメラも衛星もロケットも大事ですが、なにしろ大事なのは地上で色を正確に測ることです。
そのために私はこちら(画面共有)を発明しました。
これは色を正確に測る。人間の目やデジタルカメラは大体3バンドですが、これは100バンド相当です。
農家の方にも使えるよう簡単に作りました。パテント(特許)も取っています。
これを使って調べると、稲の生育段階の指標を作ったり、病気を見分けるための必要な色を同定できます。 今30台ぐらい作ったのですが、将来的には1,000台、1万台作って、世界中のあらゆる作物のあらゆる状態、あらゆる水分、あらゆる肥料の状態のデータを集める。
そうすることで衛星の価値そのものが100倍にもなると考えています。
海洋ごみは今、プラスチックが大事な問題ですが、我々は海に行ってごみを拾ってきて何百種類というごみのスペクトルを測る。ゆくゆくは人工衛星からもごみの種類を判別できるようにしたいと考えています。

榎本氏:
誰でも使えるように簡単にしなければ結局広まらないというお話は、皆さん共感していただけたかと思います。
続いて齊藤さん、お願いいたします。

齊藤氏:
私はグリーン&ライフイノベーションという北大発のベンチャーの会社に所属しています。
水産業に衛星を中心としたICT技術を使って、スマート水産業を支援することを目指してます。
本日は水産業、漁業の立場からお話しします。
大きく分類すると、獲る漁業、作る漁業の2つに分かれると思います。 

獲る漁業は、漁船を使って魚を捕りに行く。カツオの一本釣りとかです。もう1つは、待ち構えて魚を獲る、鮭の定置網。このようなものが獲る漁業です。
作る漁業は、マグロの養殖。ブリや最近はサケの養殖も流行ってきています。もう1つは、ホタテ貝や昆布の養殖。魚の養殖は餌が必要ですが、ホタテ貝や昆布は自然の餌をそのまま使うので餌はいらない。
獲る漁業は狩猟的で、作る漁業は農耕的と言っても良いと思います。このような両方の漁業に我々は衛星データを使って、より収益を上げるような支援をしています。
衛星データは空間情報なので、そういう意味で「みえる漁業」に見える化できる。

榎本氏:
人工衛星データで「みえる漁業」になったという点が、まさに変革の始まりと言っても過言ではないんじゃないでしょうか。
続いて前塚さん、お願いします。

前塚氏:
十勝の農業について少し紹介します。
皆さんが食べている馬鈴薯、ポテトチップスの原料や生食の芋、うどんなどに使われる小麦、砂糖の原料になる甜菜や豆類を作っています。
畜産も含めると、十勝の総面積、耕地面積は大体24万ヘクタールほどで、 十勝の農業は、日本の皆さんの食べ物を作っている一大産地だと自負しております。
ただ、農業が抱えている問題もあり、 経営者の高齢化が進んでいることから年々離農される生産者もいます。
現在では、畑作と畜産を合わせて農家は大体5,000戸くらいです。農家1戸当たりの平均面積は43ヘクタールほど。 東京ドームに換算すると10個ぐらいの面積を一人の経営者が作付けしている。非常に規模が拡大した流れで十勝の農業は進んでいます。
そういう中で色々な問題が出てくるのですが、農業の基本的な考えとしては大量に獲れ、 品質は平準化していて、なおかつ作るコストを安くする。
これが課題ですが、面積が大きくなればなるほど対応が難しくなっていく。
人の目で見られる圃場の数は限られるので、より規模が拡大したときは人の目ではなく、衛星の情報に頼らないといけない。
それが課題解決の1つの手段だと思い、農協連では色々な仕事を進めています。生育診断や、位置情報を使った効率的な収穫支援など、人工衛星が活躍することは色々あると思います。
今後も衛星で農業の課題を解決したいと考えています。

榎本氏:
課題というお話がありましたが、農業はスマート農業といわれるように先駆的なイメージですが、さらにその上、人工衛星データを使うということは超スマート農業というのでしょうか。
その辺も後でお話をお聞きできたらと思います。
櫻庭さん、サービスの方からのお話をお願いします。

櫻庭氏:
弊社の「天地人」という名前の由来は、天は宇宙のデータで、地は地上のデータ、人は人のノウハウや企業のデータ、その3つ掛け合わせてAIで学習し、GISのサービス上に分かりやすい形、 使いやすい形に乗せてサービスを提供しています。

衛星データも1種類を使うわけではなく、最低でも4種類くらい使っています。
衛星のデータ自体もマルチモーダルにAIで学習しています。
なぜこういうことをしているのかと言うと、衛星データ自体がまだまだコスト的に農業に合わないことが多いので、いかにコストを抑えながらサービスとして提供できるかということに注力しています。

農業分野では、お米の卸でトップシェアを持つ神明様と、山形県で宇宙ビッグデータ米を栽培したり、稲作をした際に水を張るときに発生するメタンガスを、衛星で効率的に抑止できないかデータ解析したりしています。
農業系ではさまざまな課題がある中で、いかに収量を落とさずに高品質なものを作るか。
一人当たりの栽培面積がどんどん増えてきている現状で、お米であっても一反あたりどのくらい手を加えられるかというと、だんだんできなくなっていて、 収量や品質が落ちてしまう。
我々が衛星データを使って解決できればと取り組まんでいてます。

榎本氏:
課題という言葉が頻繁に出てきますが、その課題を解決するサービスを作っているのが天地人です。
本日は現場の声も聞いていただき、事業にこれは使えるかもなど、そんな視点でも見ていただけたらと思いました。 

人工衛星データ こんなことにも使えます!

榎本氏:
次のテーマに参りましょう。
「人工衛星データこんなことにも使えます!」ということで、先ほど触りをお話いただきましたが、 具体的にどのように使っているか、こんなことにも使えるというお話をしていただき、皆さんのヒントにしていただければと思います。
まず高橋さんから、北海道が目指す大きなビジョンとともにお話いただきたいです。

高橋氏:
稲やプランテーション、海、資源、汚染。できないことの方が少ないので、何でも見ることができる。
大事なのは先ほどから出ている課題。利用者として何がほしいのかということです。
日本の宇宙開発は今まで官需がメインで、 国や宇宙機関のプライドがドライビングフォースになってきた面が否めない。
ですが、この10年ほどで世界が利用の方に大きくシフトしています。
要するに、利用で役に立たないものは売ってもしょうがない、衛星を飛ばしてもしょうがないとみんな思うようになってきた。
そのときに、北海道で我々北海道大学や他の私立・国立大学、公立大学を合わせると少なくとも7大学が人工衛星やロケットの開発に非常に深く関わっています。
それと、スペースポートの他、利用する立場の農業や農林水産業のフィールドが日本で随一です。
北海道以外ではありえないぐらいのリソースを持っています。
ここを繋げることで、 日本のため、ひいては世界のために北海道が宇宙センターになる必要があると確信しています。

北海道広域宇宙センターという仮想的なセンターを作って、民官学を全部つなげて推進するセンターにする。
しかし、世界から見ると広い北海道もほぼ点です。
だからここで閉じるのではなく、世界に打って出るための中心地の1つにしたいと思っています。

シリコンバレーという言葉はよく使われますが、産業集積地のことをシリコンバレーとは言いません。
もともとシリコンバレーの本場はカリフォルニアですが、スタンフォードやバークレーの大学のスピンオフが人とお金を産業界と回したことによって成立しています。
だから、人を作ることと研究すること、産業が一体化していることがシリコンバレーの定義にあります。
それを作るために、まさに産と学。製産業も利用の方もある。北海道は日本の中でも非常にユニークな場所ですし、そこを使って世界が北海道を利用して豊かになってほしいと思っています。

榎本氏:
宇宙版シリコンバレー、宇宙バレー、良い響きですね。
このビジョンを実現させるために、まず着実に皆さん一歩一歩踏み出していかなければならないと思うので、現在具体的に取り組まれていることについて、運用している新システムのご紹介を小川さんからお願いします。

小川氏:
十勝での衛星利用について2つお話します。
1つ目が今スライドに出ている十勝地域組合員総合支援システム、通称TAFシステムと呼んでいますが、このシステムを介して衛星データを生産者に活用していただいています。

これはインターネットで使えるもので、農家や農協がTAFシステムと検索していただくとログイン画面が出てきます。IDとパスワードを入れてトップメニュー画面に展開し、そこから営農に必要なさまざまな情報を自分で登録、収集、共有することができます。
その中にマッピングというメニューがありますが、これはGISのソフト、いわゆる地図のソフトになっていて、農家さんが自分の圃場図を地図としてインターネット上で管理できるものになっています。

このソフトは、まず1つがSentinel-2(センチネルツー)という衛星画像が自動でこの地図に入り、利用できるようになっています。
活用方法の1つに小麦があります。十勝では秋まき小麦が多く、 9月に種を撒いて、越冬して、翌年の7月下旬から8月上旬に収穫するというサイクルがあります。
7月上旬はまだ緑色の状態ですが、収穫前になると枯れ上がって茶色っぽくなります。
衛星画像にはNDVI解析というものがあります。近赤外光の反射によって作物の活性を見ています。
作物が枯れ上がって茶色くなるとNDVIの数字が下がります。
現在小麦を収穫する際は、農家さんが自分の畑だけを収穫するのではなく、地域で収穫期を共同して収穫することが多いのですが、その時にどの畑から収穫が早く始められるかが衛星画像で分かるようになっています。
こういった技術ができる前は、農家さんや農協の担当が圃場を全て歩いて、どの畑が早そうか手で揉んだり、目で見たりして決めていましたが、衛星を使って効率的に作業を進めることができるようになっています。

もう1つの活用方法は、トラクターの位置情報を地図に飛ばせるようになっています。
誰がどこで今収穫作業をしているのか、運搬しているトラックがどのくらいで畑に戻り工場に行くのかが全部分かります。
位置情報から実際に作業した軌跡が取れるようになっているので、畑での作業時間が分かるようになっています。
今までは労働力管理のために台帳に作業時間を全部書いていましたが、インターネットのシステムで自動的にそのようなデータを取得できるようになっています。

もう1つ、TAFシステムではなく、衛星画像の農業利用として、トラクターの自動運転があります。
トラクターは、農家さんが乗ってハンドルを操作し、畑の整地、種や肥料を撒いたりする大きな機械です。
大きな畑を走るときには、まっすぐ走ることが想像よりも難しく、労力や時間が非常にかかる作業です。
これを衛星からの位置情報とそれを補正する情報で、トラクターの位置が正確に分かり、設定すればハンドルを操作しなくても自動的にまっすぐ走って、畑の整地や種を撒くことができます。
これによって、熟練農家ではない、後継者の若い方や従業員にも作業をお願いできるので、作業の軽減や負担を散らすことができるようになります。
また、夜間などの少し視界が悪いときでも作業できる他、精密な作業も可能となり収量や品質が向上します。

榎本氏:
わざわざ見に行かなくてはいけなかったものが、一目で分かる。
衛星データはレントゲンのようなもので、解析しないと状況がいまいち分からない。
解析が一目でわかる、見える化されているというのは、農家の皆さんは人生が変わるぐらいのものではないかと思って聞いていました。
続いて齊藤さん、お願いします。

齊藤氏:
「漁場がみえる」「来遊がみえる」「危険がみえる」「適地がみえる」の4つの例を紹介します。
「漁場がみえる」について、昔から漁場探査に衛星データを使うのはポピュラーでした。
最近、漁場予測に数値予測のモデルを使って、5日先の漁場を探すことなどができるようになっています。
「来遊がみえる」は、 来遊カレンダーというものを作っています。
気象庁が出す1カ月先までの海の3次元予測データを使いますが、例えばブリが10月何日くらいに来て、何日くらいまで漁が続くなど、そのような来遊カレンダーを提供する。
同時に他の衛星で水温や夜間可視画像で、近くで獲っているイカの漁船の分布を見ることができます。

「危険がみえる」ということで画面に示したのは、流木です。
大雨が降って、川から流木が出て海岸に達したり、漁港に入ってきて危険だったり、それが網に刺さったり、漁船にぶつかることが起こり得るので、そういった危険が見えるということです。
この画面は、左がドローンで、右が合成開口レーダーで撮ったものです。
合成開口レーダーは雨が降っても夜でも撮れるもので、流木がちゃんと見える。
最後に「適地がみえる」ですが、日本では200万トンが獲る漁業、100万トンが作る漁業です。世界的には獲る漁業、作る漁業とも1,000万トンくらいです。
しかし、獲る漁業は頭打ちで、どんどん養殖が盛んになってきている。
日本もそうなっていくので、どこに養殖地を作ったら良いか、どこが適地かということが必要になってきます。
色々な衛星の情報、例えば水温、水の濁り、流れ、それに加えて気象情報も合わせ、8段階で適地としての程度を示すことができます。

今、北海道の色々な場所で、試験的にサケの養殖をやっていますが、どこに作ったら良いかというときに、衛星を使った適地をレコメンドするようなシステムができています。
生簀は、最近、日東製網が不沈式のイカダを作ったので、 ある程度波が高くなると沈めて避けるなど、今までできなかった少し荒れるようなところでも適地を探すことができる。そんなことにもトライしています。

榎本氏:
漁師の皆さんが危険な思いをせずに済むようになったということですね。

齊藤氏:
危険が見えるのは特に沿岸です。流木が流れ出したりすると危険ですから。

榎本氏:
漁場が見えるというのも、ここに行けば獲れるということが分かるわけですよね。

齊藤氏:
ピンポイント漁場予測と言いますが、なかなかピンポイントは難しい。
でも漁師さんは、自身の経験プラスこういう情報を使う。
温暖化で色々な魚がいつもいるところにいない。そういう情報も一緒に入ると漁場の追跡に役に立つということです。

榎本氏:
未来の気候変動にもこの人工衛星データは不可欠になるのではないかということが分かりました。
続いて櫻庭さん、お願いします。

櫻庭氏:
衛星データは高いものから安いものまでありますが、それぞれどこにあるかということが、あまり知られていない。
衛星データを取得しても、それをどう解釈して分析するのか、どう活用していくかということがまだまだ難しい世界だと思っています。
それをいかにアクションに落とし込んで、使えるかというところが、今後サービスとしても、我々としても必要な部分です。

これをクリアした上でですが、日本だけではなく世界中で、気候変動で温暖化している中で、どこで何を作れば、いつそのアクションをすれば良いかということが読みづらくなってきている。
経験だけでもうまくいかないということが世界的に起きている。
そこで、衛星データを活用すると先が読めるという点で非常にメリットがあると思っています。

もう1つ、やはり環境問題があるので、いかに地球環境と共存して農業や漁業を営んでいくのかについても今後大きな課題だと思っています。
今衛星データで見ると1年で1度気温が上昇している畑などが日本のかなりたくさんの地域であります。
そうしたことを時系列で衛星データで見ながら予測する、対応を考えていくことが非常に有用だと思っていますので、ぜひ皆さんにもご活用いただきたいです。

榎本氏:
衛星データは難しいのではないかと皆さんは思ってしまうかもしれません。確かに難しいけれども、それを簡単に使えるようにしているのが櫻庭さんの会社です。
気候変動のお話は齊藤さんからもありましたが、櫻庭さんは現場の気候変動の未来についても見据えているのですか。

櫻庭氏:
何が問題で病気が起きているのかなど、そういったことも分からなくなってきている。
そのときだけで判断するのではなく、過去と比較したり、他と比較したりして、広域に時系列で見る必要があるので、そこは衛星データが本当に得意な領域だと思います。

榎本氏:
さらに簡単に使えるようにというところは、高橋さんもお話したいんじゃないですか。

高橋氏:
衛星データはソリューションまで落とし込んで初めて商売だと思っています。
生のデータはあまり面白くないです。 だから、ドローンの1000分の1の価格で作れる衛星データを加工して、その10倍で売るということを世界に展開したいと思っています。

榎本氏:
これだけ未来に欠かせないものだということは皆さんに分かっていただけたかと思います。
分かりやすく、安く気軽に使えるようにということで、皆さん頑張っていらっしゃるということですね。 

人工衛星データが変える一次産業の未来

榎本氏:
それでは最後のテーマです。
未来ということで、「人工衛星データが変える一次産業の未来」についてお話しいただきましょう。
どのようにゲームチェンジしていくのか、どんな未来になるのかというのをまず高橋さんからお願いします。

高橋氏:
人工衛星データでまだ儲かっているところは少ないです。
ですが、ポテンシャルがものすごく大きい。
国内だけで見ると、農業でざっくり100億円くらいかと思いますが、 森林の樹種判別だけで実は世界で60兆円の潜在市場があるというのが某大手総研の見積もりです。
なんでこんなことになるかというと、自然破壊を起こさないように監視する圧力が世界的に高まっている。
そのエビデンスを出すために衛星を使うということが考えられます。
もちろん値段は下がっていくかもしれませんが、日本の国家予算規模の潜在市場があるということを心に留めていただきたいです。
もちろんカーボンクレジットになる。もうこれはプライスレスですね。日本の国策に近くなる。

北海道で磨いた技術、農作物や森林、海洋を世界に展開したい。
おそらく世界は日本の1000倍ぐらいの市場があるはずで、衛星は国境がないので、他の国で日本と同じクオリティでデータサービスができるんです。
だから、十勝で培った農業技術を、穀物メジャーに殴り込みをかけるなど、そのくらいの気概を持ってやったら良いのではないかと思っています。

世界的IT企業や巨大国家が地球情報を独占しようとしています。
でも、そんなに高いクオリティではない。
今、打って出れば、我々は世界で1番高い信頼性のデータを世界中に提供することができる。それを、開発途上国と一緒にやれると思っています。

私たちのところでは途上国の学生を受け入れて、フィリピンの国家1号衛星、2号衛星をフィリピンの国家予算で、日本からのODAをゼロで作りました。
10億円というお金です。日本の予算規模の10分の1の国がこういう決断を下してくださいました。
ミャンマーはさらに日本の100分の1の予算で動いている国ですが、10億円以上の約束をしてくれた。
そういうところを教えながら、衛星を作るだけではなく利用していく世界を、世界で協力して作ろうと考えています。

1つのアイデアですが、自分の農場の収穫量を知りたい、あるいは赤潮がくる時間を知りたい、ということをスマホで調べると最寄りの衛星が見に来て、 世界のどの衛星よりも正確な情報を提供して、ソリューションをその日のうちに返す。こんなサービスを夢見ています。
これはまだ世界で誰も実現していない。そもそもこれができるのは、今のところうちの衛星だけなんです。だから、今勝負すれば勝てるんです。
これが48機あると世界中どこでも連続観測ができるようになります。
アメリカの企業が200機持っていますが、日に1回しか観測できない。
我々は48機あれば、連続で津波や火災の進行を記録して提供できます。
これを宇宙だけでなく、1つの国際的な学術とビジネスのプラットフォーム、シリコンバレーの例として日本全体に示したいと思っています。 

繰り返しになりますが、超大国や世界的IT企業に支配されない世界を、日本がリーダーシップを取り、日本だけ大儲けするのではなく途上国とともに作っていく。
そうすることで30年後に日本と同じGDPになる国がたくさんあります。
そういうところとのお付き合いを今から考えることが必要だと思います。

榎本氏:
北海道から世界を変えようというお話でした。
続いて前塚さん、お願いします。

前塚氏:
農業の未来を考えた時に、やはりこれからも経営者は減っていきますし、1つの農家の経営規模はより拡大していくと考えています。
明るい農業の未来を実現するには、より細かな栽培を支援できるような衛星情報の活用は必須になると思います。
高橋先生のお話が非常に良いなと思ったのですが、大きな面積を管理する農家、1つの作物を大きなグラウンドで栽培するようなイメージを持ってほしいのですが、その作物は実は均一に育たない。
こちらでは大きく育っているが、あちらでは小さいとか、ここでは病気は起きるとか、さまざまなことが起きます。
高品質、低コストで収量を上げるには、畑にある症状に対して細かな栽培技術をやる必要がある。それをできるようにするのが衛星情報だと思います。
衛星でしっかり見て、それぞれの畑のどこで何が起きているかを判断し、位置情報でその場所に適切な栽培技術を行使することができれば良いと思います。
ここで衛星のリアルタイム性が必要になってきます。
作物の栽培は、そのタイミングで何をする判断しなくてはなりませんが、衛星情報がリアルタイムで取れると、適切な処置ができる。
最後に付け加えたいのですが、その技術を使うのは農家さんです。
難しい技術を農家さんに使ってほしいということよりも、ボタン1つでできるというような分かりやすいソリューションになってほしいということは切に思うところです。

榎本氏:
まさに高橋先生が持ってらっしゃった機械のようにボタン1つで分かるという、それがこれから大事ですね。

高橋氏:
これは衛星を使うためのデータを農家さん自身にとっていただくというアイデアです。
これは簡単に使えます。子供でも使えるぐらい簡単な装置になっていますので、これでデータを集めたいですね。

榎本氏:
そういうものがこれから必要になってくるということですね。
続いて齊藤さん、お願いします。

齊藤氏:
農業でも漁業でも、高齢化や人手不足で省力化という方向に行くと思います。
カツオの1本釣りでも漁師は2秒で 1尾釣り上げるますが、今色々なロボット竿を作っています。自動化することで30人ぐらいで漁をしているのを5、6人でできるようになるなど、そういう世界も考えられると思います。
高橋先生の言う色々なデータがオンデマンドできたり、漁場に行って帰ってくることを自動オペレーションにしたり、そういう方向もあると思います。
作る漁業では、洋上風力発電と養殖のイカダを繋いで電力を提供し、同時に沿岸の空間利用をうまく管理していく。そういうことも必要になってくると思います。

榎本氏:
現場の農家の方と触れ合っている前塚さん、小川さん、そして齊藤さんも漁師の皆さんの声を聞いていますよね。
高橋さんも北海道から世界を変えようと動かれていて、より簡単に衛星データを使える世界にしようとしています。
櫻庭さん、最後に皆さんの思いを受け止めたお話をお願いします。

櫻庭氏:
実績として良い話をご紹介をします。
昨年天地人で作った衛星データの気象データと地上データで分析して、新品種のお米を栽培したのですが、それが環境にフィットすると食味スコアは日本のトップブランドよりも高く、収量は20%増えました。
このようなことが衛星データで実現できるようになります。
もっと衛星データを活用していただけると、未来にもっとこのようなことが起きていくと思いますので、ぜひ皆さんにも検討していただきたいです。

榎本氏:
この議論を持ち帰り、ぜひ各社のサービスに活かしていただきたいと思います。
それでは最後に代表して高橋先生、 みんなで頑張ろうというようなエールをお願いできますか。

高橋氏:
皆さんにお話いただいた中に全て入っているわけです。農業から水産業、気象ですね。
このようなものを北海道が中心にならずして日本の宇宙ビジネスはあり得ないと固く信じております。
他の全国の方々に北海道を使っていただく。北海道は北海道のためではなく、日本のためであり、アジアのためであり、途上国、そして世界のためですね。 ここを我々が一緒に切り開いていきたい。
日本はなんでも遅いのですが、ぜひここで大幅に加速して、世界のトップに立っていきたいと思っています。

※本記事はカンファレンスでの発言を文字に起こしたものです。編集の都合上、言い回しを調整している場合がございます。

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