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日本版「ホスピタリスト」の発展に向けて~米国ホスピタリスト制度から考える~

今回は、私がハワイのThe Queen’s Medical Center (以下、QMC) でホスピタリストについて勉強させて頂いた経験から感じたことを紹介させて頂きます。

日本ではまだ数が少ない「ホスピタリスト」ですが、発展した米国ではどんな働き方をしているのでしょうか?日本との違いはどんなところでしょう?

米国ホスピタリスト制度の特徴 

☆入院診療と外来診療の完全分離
☆シフト制の勤務体系

急性期入院患者さんの診療に特化

QMCのホスピタリストは急性期で入院診療が必要な患者さんの主治医として活躍していました。救急外来を受診し入院が必要と判断された患者さんの主治医となるため、様々な疾患の患者さんを同時に複数診療していました。そのため、ホスピタリストは広範囲な知識と迅速な判断が求められていると感じました。 

さらに、退院後の生活にサポートが必要となる患者さんの場合、チーム医療の中心となり、適切な医療スタッフと連携しマネジメントを行っていました。

一方で、ホスピタリストは外来診療には携わらず、退院後は外来主治医へ引き継ぐ形となっていました。

7 days on, 7 days off

QMCのホスピタリストは7日間連続で日勤の病棟業務を行っていました。週末や休日も平日と同じ体制で日勤をしますが、その後7日間は休日となる制度でした。(14日間連続勤務、14日間連続休暇のシフトもありました。)

また、夜間はNocturnistという夜勤専門で行う医師が病棟の患者さんの対応や夜間に入院になった患者さんの対応をしていました。夜間の新規入院患者さんについては、翌朝にホスピタリストが引継ぐ制度でした。そのため、夜間や休日に時間外の連絡や対応を迫られることはなく、オンオフがしっかりとした働き方をしていました。

日本版「ホスピタリスト」発展に向けて

背景の違い

日本と米国では、医療制度や保険制度、コメディカルスタッフの仕事内容など相違点がたくさんあります。また、医学教育や専門分野の選択方法も異なる点があるため、「ホスピタリスト」を日本で発展させていくには日本の制度に合わせた工夫が必要です。

多面的に捉える ~魅力と課題~

日本では、多くの「ホスピタリスト」が入院業務と外来業務を同時(又は週に何回か交代)に行っています。入院診療だけに集中して患者さんと向き合える米国ホスピタリスト制度は、医療安全や医療の質の向上につながっていると評価されています。また、日本では内科でシフト制を採用している病院はほとんどありません。現時点では「ホスピタリスト」が数人で担当医チームとなり、夜間や休日も当番制で対応している病院が大半です。シフト制を試験的に導入している病院があり、今後どのような報告がされるのか楽しみです。個人の多様な都合に合わせて就業時間を選ぶことが可能となることは、医師の働き方改革に貢献する可能性が高いと感じます。実際に、QMCで子育てをしながらホスピタリストとして働く女医さんとお話させて頂きましたが、この制度に魅力を感じてホスピタリストを選択し、両立を無理なく続けられているとおっしゃっていました。

一方で、入院中の日勤時間のみ主治医として関わり、休暇中や退院後は患者さんとの関わりが全くないという働き方は、医師患者関係が淡泊になりやすく、勤務時間内だけ体裁を整えるような診療が行われる危険が潜んでいます。医師としての責任感やプロフェッショナリズムの構築・維持を難しくする可能性が示唆されます。また、「ホスピタリスト」として独立して働ける医師の絶対数が必須であり、日本の現状では圧倒的に人数不足です。

臨床医の育成

さらにQMCの見学では、ホスピタリストが内科レジデント教育に携わっていたこともとても印象に残っています。指導資格のあるホスピタリストが若手医師の育成に関わるシステムが構築されており、短期間でも医師として成長していることがはっきりと分かりました。特に、様々な併存疾患のある高齢患者さんの入院管理が必要なことの多い日本において、日本版「ホスピタリスト」が臨床医の教育分野にも力を発揮することは疑いの余地がありません。

一方で、アカデミックな分野への貢献の仕方や、広範囲な知識の習得方法、専門性の高いスペシャリスト領域への関わり方など、日本版「ホスピタリスト」が発展するために必要な教育制度は、まだ議論と考察が必要な部分かと思います。

最後に

コロナ禍で直接の距離は保たなければいけない今日ですが、QMCでの経験は『実体験に勝るものはない』と言わざるを得ない素晴らしい経験でした。

まだ、日本版「ホスピタリスト」は確立されておらず発展途中ですが、力を入れている病院が日本にも増えています!

興味がある方は『質の高い病棟診療』を提供する日本版「ホスピタリスト」を是非一緒に作り上げていきましょう。

参考文献
Wachter RM, Goldman L. Zero to 50,000 - The 20th Anniversary of the Hospitalist. N Engl J Med. 2016 Sep 15;375(11):1009-11.

文責:鈴木森香(仙台医療センター総合診療科)
※当記事の内容は、個人の意見であり、所属する学会や組織を代表するものではありません。

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