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眠れない夜に。恋は呪い

誰かと距離を縮めようとすると必ずあの人の夢を見る。
眠れない夜には優しいふりをして近づいて去り際に切りつけていく。
楽しかった思い出と自身の一部を失ったような喪失感。
未練があるとは思っていない。
今片膝ついて求婚されようとも誓って受けることは無い。
なのに心の奥に巣くっているこれはもはや呪いだった。

また同じことになるのではないか。
こんなに悲しい思いをしたんだぞ。
その人を信じて大丈夫なのか。
その人も私を傷つけるかもしれない。

私の臆病な防衛本能があの人との記憶と結託して止めようとしてくる。

一時の気の迷いだよ。
冷静に見たらそんなにいいと思ってないでしょ。
相手もそんなに本気じゃないはず。
そう囁いて。

でも今回の夢は少し違った。
懐かしいあの人が1週間の旅行からふらっと帰ってきたように私の部屋にやってきた。私は4年ぶりなのに。
当たり前のように触れようとする。
楽しそうに話をしてくる。
私は辛いのに。
だから「もう嫌い」と一言言ったら夢の中のあの人は
「そっか」とつぶやいて部屋を出ていった。

そこで目が覚めた。
はっきりわかるほど涙で濡れていた。
夢の内容は曖昧なのに悲しい気持ちだけが残っていてしばらく泣いた。
夜明け前の水色の光が部屋に差し込んでいた。

それ以降、あの人の夢は見ていない。
眠れない夜に顔を出すことはあっても牙をむく前にすぐに立ち去るようになった。
あの部屋を呪いは出ていったらしい。

次こそは疑いの目を捨ててこの人を愛せるだろうか。
愛したいし信じたいと思う。


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