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裏金問題、女性議員比率世界165位、このままでいいの?日本の選挙制度

※下記の文章は、2023年6月~12月に開校された第一回こくみん政治塾の卒業論文として提出したものを、一部編集したものです。

 現在の日本の選挙を左右しているのは政策ではなく、認知の回数や人柄、信頼できる人からの推薦など、政策以外のものである。特に認知に関しては、個々の政治家が時間と人手、お金をかけて手に入れるものとなっている現状があり、時間や人手、お金をかけられない政治家は厳しい戦いを強いられる事になる。「選挙に強くならないと言いたいことも言えない」とはまさにその通りではあるが、逆に言えば「選挙に強い政治家ばかりが言いたいことを言う世の中」ともなっているわけである。
 このような現状の打開策としても期待された平成二十五年のネット選挙解禁であったが、実際には街頭演説、ポスティング、駅立ち、ポスター張り等、有権者に認知を与えるの手段の一つとしてインターネットが加わった状態であり、候補者の選挙活動にかける労力は益々増加したともいえる。
 こうした状況下では、選挙に時間を掛けることのできない子育て中の女性や、介護中の方、また身体障害や持病を持つ人等が選挙で勝つことは難しく、過少代表となっている現状がある。
 分かりやすい例として、女性の政治参画について考える。日本の衆議院の女性議員比率は10.0%(注1)で世界190か国中165位(注2)、参議院の女性議員比率は26.0%(注3)、全体でも15.6%であり、OECDの統計においても最下位となっている。(注4) また、地方議会における女性議員割合は15.1%、首長に占める女性の割合は都道府県知事で4.3%、市町村長で2.3%、女性ゼロ議会比率は15.8%となっている。(注5)
 このような現状を打開するにはどうしたらいいか。海外に目を向けてみると、女性の政治参画が進んでいる国は、大きな運動や社会的背景をきっかけとした制度改革や、国民の意識の変化が後押ししていることが分かる。つまり、行政の呼びかけ程度では女性の政治参画へのハードルは乗り越えられるものではないということである。女性をはじめとするマイノリティの政治参画を実現し、過少代表となっている現実を是正することで民意が正しい割合で政治に反映されるようにするには、国民が問題意識を持ち、大きな世論を形成し、制度改革に繋げていく必要であると私は考える。
 具体的な選挙制度の改革内容の一つとして、クォーター制の導入が挙げられる。クォーター制とは、議会における男女の均衡を目的とした措置として、議員、公認候補等の性別割合を憲法や法律によって義務付けるもの、又は政党等が自主的に規約を定めているものがあり、世界137の国、地域が何らかの形で導入している。(注6) 前者を法律型クォーターと呼び、その中でも性別によって議席数が割り当てられているものを議席割当制、候補者の性別の割合が定められているものを候補者クォーター制と呼ぶ。これらが憲法や法律で規定されているのに対し、政党が自発的に候補者等の性別割合を定めているものを政党型クォーターと呼ぶ。なお、政党の性別割合に対し、公的助成制度を通じた動機付けを用いている国もある。
 女性議員比率世界第一位のルワンダは、民族間紛争により多くの男性が命を落としたことから女性の社会進出、政治参画が進み、後に制度としてクォーター制が導入された国である。アフリカ諸国では民主化の過程が女性の参画拡大の契機となっていることが多く、近年急激に女性の政治参画が進んでいる。一方、スウェーデンでは女性運動の高まりを背景とし、1970年代に政党が自主的にクォーター制を導入したことにより、女性議員比率が一気に上昇した。北欧諸国ではクォーター制が法律で定められている割合は低いが、女性の政治参画は世界的に上位に位置している。北欧諸国のジェンダー平等は政治的な競争によって生まれ、維持されているという特徴がある。
 アジアではどうだろうか。日本に近い台湾は、2020年時点でアジア諸国の中で最も女性議員比率の高い地域である。これは中華民国により統治されていた頃に行われていた議員割当制のレガシーであり、1987年に民主化が始まって以降、議論を経て候補者クォーター制として法律化されている。中華民国時代における女性の議席割当は5〜10%と決して高い数値ではないものの、選挙で常に女性の議席が保障されることにより、歴史的に国民が議員割当制度に馴染むことができたと考えられる。民主化をきっかけにジェンダークォーター制に対する議論は活発化し、19988年の地方政府法改正により地方議会の女性議員割当は25%以上、2005年の憲法改正では国会議員の15%相当が女性のために憲法が保障する議席となった。15%という数字は決して高い数字ではないが、憲法改正前の2004年ですでに21.3%だった女性議員の割合が、改憲後の2008年の選挙では30%にまで伸びている。これは制度改革が刺激となり、女性の政治参画が進んだ結果といえる。
 以上の各国の歴史から考えると、女性の政治参画はクォーター制という制度の導入をきっかけとして促進したと考えるよりも、国民の意識や活動、また社会的背景により女性の政治参画が促進され、その結果創出された制度と考えられる。現に北欧のようにクォーター制が法律化されていなくても高い女性参画率を維持している国がある一方で、クォーター制が導入されているにもかかわらず、ギリシャや韓国のように国政における女性の政治参画が20%程度の国もある。(日本は2022年時点で9.9%であるため、それでも2倍程度の女性参画率である)
 また、選挙制度改革の具体的手段として、クォーター制導入の他に公職選挙法の見直し被選挙権年齢の引き下げ、企業に対する立候補休暇の義務化議員報酬の見直し等が考えられる。
 我が国の選挙における厳しい規制は、政界における腐敗の原因を莫大な選挙費用にあると考え、選挙の公正を期し、選挙費用を抑制し、資力の乏しい候補者であっても競争可能とするために、選挙運動費用を制限し、選挙運動方法を制限した大正14年の衆議院議員選挙法に始まる。しかし現在の公職選挙法では選挙における事前運動を禁止しているにもかかわらず、政党の活動として許されている政治活動が実質、選挙の結果に大きな影響を与えている現状がある。選挙期間中のポスターやビラにかかる費用は公費で負担されるが、政治活動中の費用は公費負担とならないため、実質資金の多い候補者に有利な選挙となっている。この点も見直さなければ、一般的な金銭感覚で生活する人間が特に国政に立候補し当選することは困難である。
 被選挙権年齢の制限も、多様な民意を反映できていない日本の政治の問題点であると考える。衆議院議員、地方議員並びに市町村長の被選挙権は25歳以上、参議院議員並びに都道府県知事の被選挙権に至っては30歳以上となっており、若者の声は反映されにくい。当事者のいない議会で様々な法律が作られていくことにより、実社会と議会の乖離が進んでいく。
 現在の日本の政治家は、高い議員報酬と名誉ある立場を保つため、選挙に勝ち続け、政治家であり続けなければならない現状がある。本来政策や立法に集中すべき議員の時間が祭りの参加や挨拶周りに費やされてしまっていることは、日本としての大きな損失であると私は感じている。しかしこの問題は日本に深く根付いた終身雇用制度との密接な関係性があり、文化的な背景からなかなか改革の難しい部分でもある。人生の一部の期間を政治家として過ごすことで社会改革に参加し、政治家を辞めてからも社会で一般的な仕事に就き、再度政治を眺めることで問題点を発見していく。政治家が国民の代表として議会を動かすには「リボルビングドア」方式のような感覚が必要だと感じている。そのためには国民や企業が終身雇用制度という文化から意識改革を起こす必要がある。また、制度としてできることとしては、議員報酬を一般企業に務める国民と同程度にすることや、それに伴い労務環境を整備し議員としての活動時間に制限を設けること、また企業に対する立候補休暇の義務化などが考えられる。
 憲法第四十三条には「両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する」と規定されている。現在の国会議員は果たして、日本の「全国民」を代表していると言えるだろうか。政治と民意がこれだけかけ離れている今、国会議員を決める選挙の在り方について、国民が自分事だという意識をもって改革に働きかけていく動きが高まっているように感じる。
 日本は未だ市民による政治改革の起きたことのない珍しい国だという意見もある。政治改革にとって重要なのは、法整備よりも国民の意識の変化だ。止まらない少子高齢化による社会保険料負担の増加、30年間上がらない給料、日本国民が生活の苦しさを強く感じている今こそ、国民を巻き込んだ抜本的な選挙制度の改革に向けて動き出すべき時であると私は考える。

注1 2023年2月13日現在
注2 IPU Women in politics 2021より
注3 2023年3月30日現在
注4 OECD Dataより 2021年現在
注5 2021年12月31日現在 総務省調べ
注6 Gender Quotas Databaseより

【出典】
内閣府男女共同参画局 女性活躍・男女共同参画における現状と課題
https://www.gender.go.jp/kaigi/senmon/wg-nwec/pdf/wg_01.pdf
OECD HP
https://www.oecd.org/tokyo/statistics/women-in-politics-japanese-version.htm
内閣府男女共同参画局 平成19年度版男女共同参画白書
https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/h19/zentai/danjyo/html/column/col01_00_03_02.html
女性議員の増加を目的とした措置―諸外国におけるクォーター制の事例―(資料)https://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_9535019_po_077803.pdf?contentNo=1
主要国の選挙におけるクォーター制
https://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_12358236_po_1206.pdf?contentNo=1
台湾におけるジェンダークォーター
https://www2.igs.ocha.ac.jp/wp-content/uploads/2019/05/1.pdf
我が国の選挙運動規制の起源と沿革
https://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_3050306_po_071805.pdf?contentNo=1


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