細田成嗣

1989年生まれ。ライター/音楽批評。2013年より執筆活動を開始。編著に『AA 五十年後のアルバート・アイラー』(カンパニー社、2021年)。2018年より国分寺M'sにて「ポスト・インプロヴィゼーションの地平を探る」と題したイベント・シリーズを企画/開催。

細田成嗣

1989年生まれ。ライター/音楽批評。2013年より執筆活動を開始。編著に『AA 五十年後のアルバート・アイラー』(カンパニー社、2021年)。2018年より国分寺M'sにて「ポスト・インプロヴィゼーションの地平を探る」と題したイベント・シリーズを企画/開催。

マガジン

  • 短評集

    Twitterで1日につき1本ずつ投稿している280字のアルバム・レビューを月ごとにまとめました。選盤は即興音楽とその周辺の新譜が中心ですが、雑誌等であまり扱う機会のない数年前の旧譜も取り上げます。

最近の記事

松丸契と彼の「幽霊」たちに関する断想——「SOUND & CITY Presents Playing with Ghosts: Kei Matsumaru」について

 極めて魅力的なコンセプトがあったとして、当然といえば当然だが、それを具現化した際に魅力的な音楽になるか否かはまた別の話である。受け手側にとっては、あらかじめ把握したコンセプトを単に確認するために聴くことほど退屈な聴取もないだろう。優れた作品や表現であるなら、多くの場合、具現化された響きを実際に体験することで何がしか新たな気づきが得られるものである。それは言語化された概念からは漏れ落ちていた種々さまざまな知覚情報かもしれないし、制作者でさえ意図していなかった別のコンセプトが浮

    • 驚嘆すべき崇高なる「気配」のサウンド風景——伝統楽器のオルタナティヴな響きが描き出す即興音楽の現在地

       太鼓芸能集団「鼓童」の元メンバーであり、現在は多⺠族芸能楽団「WATARA」やパフォーマンス集団「ANTIBODIES Collective」、リズム・アンサンブル「goat」などのメンバーとして活動するほか、関西を拠点にジャンルを跨いだ即興セッションも精力的にこなす篠笛奏者・立石雷による初のソロ・アルバム『Presence』が完成した。リリース元は日野浩志郎が2020年に設立したレーベル〈NAKID〉。録音/編集/ミックス/プロデュースは日野が務め、マスタリングは名匠ラシ

      • 音源の発掘/再発を考えることは過去の歴史と向き合うことのみならず、同時代の音楽を未来にどう受け継ぐかを考えることでもある

         毎年さまざまな音源の発掘/再発が行われている。けれど世の中ではどうやら好事家のためのマニアックなアイテムと思われている節があるようだ。そんなことを考えながらカンパニー社の『日めくりジャズ366 2024年版』を捲っていたら、「評論家やファンはジャズの本質をすべてレコードで評価しようとしている。アメリカを回りクラブギグのみで歴史本を書くのは不可能に近いがレコードだけで歴史を勝手に作るのはやめてもらいたい」というホレス・タプスコットの主張が目に留まった。もっともである。わたした

        • カンパニー社が示すマイナー音楽流の出版活動——音楽批評の現在地を探る特別対談・完全版

           カンパニー社という音楽系出版社をご存知だろうか。2019年に1冊目の書籍としてジョン・コルベット著『フリー・インプロヴィゼーション聴取の手引き』を世に送り出すと、リスナーのための即興音楽の入門書という国内では類例のない内容が一部界隈で大きな話題を呼んだ。翌2020年にはアメリカの奇才芸術家ハリー・スミスのインタビュー集であるラニ・シン編『ハリー・スミスは語る 音楽/映画/人類学/魔術』を刊行。20世紀半ばのフォークリバイバルに多大な影響をもたらしながらも、多岐にわたる活動か

        • 松丸契と彼の「幽霊」たちに関する断想——「SOUND & CITY Presents Playing with Ghosts: Kei Matsumaru」について

        • 驚嘆すべき崇高なる「気配」のサウンド風景——伝統楽器のオルタナティヴな響きが描き出す即興音楽の現在地

        • 音源の発掘/再発を考えることは過去の歴史と向き合うことのみならず、同時代の音楽を未来にどう受け継ぐかを考えることでもある

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        • 短評集
          5本

        記事

          AI(ChatGPT)との音楽談義が思いの外ディープに発展した——インタビュー形式での対話の記録

           OpenAIが発表したAI言語モデル「ChatGPT」が話題だ。テスト版が無料公開されているので使用してみたところ、これが凄い。チャット形式で質問を投げかけると、まるで人間と会話しているかのように答えが返ってくる。しかも単に一問一答のレスポンスがあるだけでなく、前後の文脈を踏まえた上で切り返してくれるのだ。これまでもチャット形式のAIサービスは様々に存在していたが、ややこしい質問を投げても「すみません、よくわかりません」と打ち切られてしまうか、不自然な回答が返ってくるものが

          AI(ChatGPT)との音楽談義が思いの外ディープに発展した——インタビュー形式での対話の記録

          短評集 2022年5月

           2022年5月の短評を以下にまとめた。短評集の概要と有料記事としている理由等についてはこちらを参照。

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          短評集 2022年5月

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          短評集 2022年4月

           2022年4月の短評を以下にまとめた。短評集の概要と有料記事としている理由等についてはこちらを参照。

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          短評集 2022年4月

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          短評集 2022年3月

           2022年3月の短評を以下にまとめた。短評集の概要と有料記事としている理由等についてはこちらを参照。

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          短評集 2022年3月

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          サウンド・アートは「クライシス」に対して何ができるのか——即興演奏の距離とメディアの不透明性について

           新型コロナウイルスのパンデミックは直接的/間接的に世界を大きな混乱へと陥れた。ここ日本でも2020年1月に最初の感染例が報告されて以降、瞬く間に感染が拡大。同年4月には最初の緊急事態宣言が発令され、約2ヶ月間にわたって不要不急の外出を自粛するよう呼びかけられた。首都圏の繁華街では多くの店舗が休業に追い込まれ、まるでゴーストタウンのように人間の気配を失った都市の様子がニュースで繰り返し報道された。こうした状況下で人間と人間が対面で接触することは感染のリスクを負った行為だと看做

          サウンド・アートは「クライシス」に対して何ができるのか——即興演奏の距離とメディアの不透明性について

          短評集 2022年2月

           2022年2月の短評を以下にまとめた。短評集の概要と有料記事としている理由等についてはこちらを参照。

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          短評集 2022年2月

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          反戦という紐帯、あるいはいかにして「音楽の力」と向き合うか——個々別々の人間が同じ場に居合わせることの可能性について

           耳をそばだてるも音楽が居場所を失った世界。そうした世界を正しく想像することができるだろうか。戦火に曝された人々にとって音は生き延びるための重要な手がかりである。周囲の環境音に耳をそばだて、いつ訪れるとも知らぬ敵機の襲来を敏感に察知し、場合によっては即座に安全な場所へと逃げ込まなければならない。実際に二度の世界大戦においてこうした耳の技法は軍事力の一つとして要請されていた。敵機の音を聴き取るための空中聴音機が導入され、どのような種類の戦闘機がどのような位置に飛来しているのか聴

          反戦という紐帯、あるいはいかにして「音楽の力」と向き合うか——個々別々の人間が同じ場に居合わせることの可能性について

          短評集 2022年1月

           2022年1月から280字の短いアルバム・レビューを1日につき1本ずつTwitterで投稿するという試みを始めた。新譜だけでなく、雑誌等であまり扱う機会のない数年前の旧譜も取り上げる予定だ。対象となるジャンルは特に決めていないが、自分の興味から必然的に即興音楽とその周辺が多くなるだろう。日々の備忘録のような試みでもある。とはいえ惰性で書くつもりは一切なく、商業誌と同じように労力を割き、同じようなクオリティで仕上げたいと思っている。  なぜそのようなことを始めたのか。主に二

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          短評集 2022年1月

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          身体、楽器、空間、時間の関係性を音で探る「独奏」の試み——松丸契、インタビュー

           自身のリーダー・カルテットやblank manifestoのほか、SMTKやm°feなど複数のバンド/プロジェクトで活躍する気鋭のサックス奏者・松丸契が、2020年からソロ・インプロヴィゼーションのライヴ・シリーズに取り組んでいる。シリーズの名称はそのものずばり「独奏」だ。毎回約90分間、休憩を挟まずサックス一本を手にアコースティックな響きだけを用いて演奏を行っており、静謐でサイン波のようなロングトーンから苛烈でノイジーなフリークトーンまで自在に操りつつ、何らかのモチーフと

          身体、楽器、空間、時間の関係性を音で探る「独奏」の試み——松丸契、インタビュー

          ソーシャル・ディスタンシング時代と呼応する「距離の音楽」の実践——中川裕貴、インタビュー

           京都を拠点に活動するチェロ奏者・中川裕貴による新作コンサート『アウト、セーフ、フレーム』が、7月31日から8月2日にかけてロームシアター京都・サウスホールで開催される。未曾有のパンデミックを受けて、当初の予定よりも広い会場へと開催場所を変更し、感染拡大を防ぐための措置を講じたうえでコンサートの形式を拡張することに挑むという。人々が密集することによって空気の振動を分かち合うという、従来の一般的なライヴやコンサートの形式がそのままでは成立し難い状況となったいま、フィジカルな空間

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          音楽の実験性を肯定すること——ポストパンデミック時代を生きる集団即興あるいはメディア・アートについて

          「アートは無意味なことのためのPRではない。美は事物が存在していることの理由である。美は真実の響きである。美は真実らしさである。美はまた、ちょっとした死の感触でもある。」(ティモシー・モートン「ウイルスよ、ありがとう、わたしたちと共生してくれて」)  あらゆる音楽がメディア・アートとしての性質を帯びはじめている。むろんすべてではない。いまもなお小さな場所で奏でられているささやかな響きは無数にあることだろう。家族の前で少年少女が披露するピアノの旋律や、年頃の男女が恋人に捧げて

          音楽の実験性を肯定すること——ポストパンデミック時代を生きる集団即興あるいはメディア・アートについて