【実体験】階段の小窓

怖い話は大好きなのですが、私自身はふだん何かが見えたり聞こえたりすることはありません。
ただ、一度だけ妙な体験をしたことがあります。

中学2年生の夏休みでした。
時間は夜8時頃、リビングでテレビを見ていたのですが、昼間に取り入れた洗濯物を弟の部屋に置いたままだったことを思い出しました。

家は二階建てです。
リビングを出て明かりを点け、階段を昇っていきます。
踊り場で右へ直角に折れて、更に昇りきった正面に弟の部屋はありました。

奴のベッドにどさっと置いたままの洗濯物を抱えて部屋を出ると、ちょうど階段の降り口にあたります。
そして階段の向こう、正面の壁には明かり取りの窓が設置されているのですが、そこに部屋から出てきた自分の上半身が映りました。

(ん?)と思いました。
何か違和感があるのです。
窓に映った自分の姿をしばらく見つめます。……何がおかしいのか分かりません。まぁいいかと諦めて一階へ降りました。

洗濯物は多く、さきほど全ては持って降りられなかったので、もう一度弟の部屋へ行きました。
同じように洗濯物を抱え、部屋を出ます。そこでようやく、先ほどの違和感の正体に気づいたのです。

いま見えている窓には、自分の姿なんて映っていませんでした。
天井に接して造られた小さい窓なので、高すぎて私の身長では映らないのです。
現に今、手を上げてみてようやく肘から上が映る程度です。

しかも、外が暗いので窓はかなり鏡のようになっていて、部屋の壁紙やドア枠、今上げている私の腕のテクスチャーまではっきりと映っています。
もし私の上半身が映ったなら、目鼻立ちや服の色まで見えるはずなのです。

でも、さっき窓に映ったものは、凹凸のない真っ黒の上半身でした。

その家には今も住んでいるのですが、未だに階段を降りるときは小窓から目を逸らしてしまいます。

もちろん、あの黒い影が幽霊とは限りません。幻覚かもしれません。
ただ私はあのとき、何をじっと見つめてしまったのだろう、と思うのです。