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【読書日記】『祈願成就』

創作大賞2023新潮文庫nex賞受賞作、霜月透子さんの『祈願成就』が5月29日(水)に発売されました。

『祈願成就』霜月透子


noteに掲載されている作品はこちらももちろん受賞発表後に読んでいるのですが、改稿された書籍版を読了したので早速感想を。

凄惨な死を遂げた幼なじみの郁美の訃報を聞いた実希子は同じく幼なじみで恋人でもある徹と郁美の葬儀に向かいます。

いつも一緒に遊んでいたはずの幼なじみですが大人になり疎遠になっていたようで、郁美の訃報をきっかけに幼なじみ五人で雑木林の一角を「秘密基地」と呼んで遊んだことを思い出します。

私は記憶ってとても不思議なものだと思います。例えば親しい人と同じ時に同じ場所に行った時のことを数年経て、その人と話したときに、そのことそのものを忘れていたり、忘れられていたり、覚えていることがずれていたり、印象に残ったことが違っていたりするんですよね。

私はよく人から「そんなことあったっけ?」と言われることが多々ありまして、そういう時にとても寂しい気持ちになりますが、きっと忘れている方は忘れている方で寂しいものなのかもしれない、と登場人物の実希子にそんな気持ちを抱きました。覚えていない人に話しているうちに覚えている方は覚えている方でどこか不安になるものです。あれは私がそう思い込んでいただけなのではないか? などと記憶についてあれこれ考えました。

そんなことを思いながら読み進めていると、
郁美が魔女と呼ばれていたことや、おまじないをしていたこと。そして、幼なじみ五人はあるおまじないをしていたことが明らかになっていくのですが……。

五人それそれが、おまじないで何を願ったのかはぜひ読んでいただきたいところなのですが、私個人としては徹が過去に願ったことがしんどかったです。だって、子どものころ、つい感情的になって、後先考えずにそういうことを考えてしまうことってあったよなあと思って、それが「願いとして叶ってしまう」恐ろしさは想像に難くなかったんです。

たとえ偶然だったとしても良くないことを願ってそうなってしまったとしたら、罪悪感がわきますよね。でもそれがおまじないのせいだとしたら、ますます罪悪感から逃れられない。

しかも、大人になって再び事実と向き合う恐ろしさは口の中が苦くなってくる気がしました。

幼なじみ5人ひとりひとりに過去の願いの代償を取り立てにきたかのような「あれ」が本当に恐ろしかったです。

書籍ではnoteにはなかったプロローグがあり、これが恐怖をあおっていました。そして、幼なじみ五人それぞれの過去や現在エピソードが加筆されていて、五人のキャラクターや関係性がより明確になることで、恐ろしさがじわじわと広がっていきました。

なかでも健二のエピソードに背筋が寒くなります。

この作品を通して、自分自身の子どものころのことも重ねながら、恐ろしい体験を味わうことができました。

おすすめです。

noteの原作はこちらから。

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