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【ショートショート】『アイアンメイデン同盟』

 教室のお昼休み時間の光景はずっと変わらない。私はいつも小学生の時からの親友のアイカとご飯を食べて話をする。

 話をするって言っても、ほとんど、アイカがずっと喋ってるのに相槌を打つだけなんだけど。

「私、もう絶対結婚するまで処女でいる! ねえ、メイコもその方がいい思うでしょ? メイコもそうしたら?」

 また、はじまった。アイカの「私、こうする!」

 高校に入学してからの最初の「こうする!」は吹奏楽部に入ることだったけど、弓道部にかっこいい先輩がいるのを知って、私まで弓道部に入ったし、映画かなんか見て、エンバーマーになるなんて言ってたけど、理数系の成績悪くてそれもあきらめてるみたいだし、あとなんだっけ? 小学生の時のスイミングスクールも、絵画教室もアイカに誘われたけど、アイカは最後まで通った試しがない。

 結婚するまで処女でいるなんて考え、また何かテレビでも見たのか漫画でも読んだのか、それとも……。

「ねえ、メイコもそうするでしょ?」

ふんふんと頷きながら他のことを考えていたら、アイカに詰め寄られたので、私は初めてアイカに賛同できないことを伝えなきゃいけなくなった。

「ゴメン、アイカ。私はそれ無理だよ」

「え? なんで?」

「だって、私、もう処女じゃないから」

 新しい思いつきに興奮して、頬を紅潮させていたアイカの顔が、蝋人形みたいに真っ白になっていく。

 私の彼氏はアイカが昨日辞めた弓道部のかっこいい先輩だ。アイカがこんなことを言い出した理由が、昨日先輩に振られたせいじゃなきゃいいと思う。

 でも、私、先輩とはもう半年以上付き合ってるんだけどな。そのことをこれからアイカが気づくことがあるだろうか? アイカは私の誕生日と血液型は知っていても、他のことは何ひとつ知らない気がする。というか知る気がないんだろうな。

締結されなかった。アイアンメイデン鉄の処女同盟のせいで立ちすくむアイカを助けるように、午後の始業のチャイムが鳴った。

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