人じゃないものと話をする

お天気のよい日曜日、谷中に行ってきた。

目当てはウサギノネドコ東京店(http://www.usaginonedoko.net/)

『おいしい石展』。

店に入ってみると、空間に響き広がるような不思議な音楽が室内を漂う。道路に面した壁はガラス張りで、冬のやわらかい、ま昼の陽が降り注いでいた。中央には、白くて平たいお皿の上にデザートのように盛り付けられた石が展示されており、周りにはさまざまな石や、鉱石でできたアクセサリーが並べられている。他にも、作家さんの作品やウニの骨、花や綿毛をアクリル樹脂に閉じ込めたプロダクトなどが置いてあった。

じっくり見てまわったあと、たくさん並ぶ石に触れてみた。

表面はさらさらしていて、細やかな粒の感触が、指の腹の皮膚に伝わる。じっと目を凝らして見てみると、重なったのか欠けたのか、白っぽい線や層の重なりがわかる。持ち上げて光に透かせば、光が石の中でユラユラと揺れた。石は、静謐でやわらかく、悠然としていた。ふと、地球のどんな場所にいたのだろう、と考える。経てきた幾星霜を静かに閉じ込め、沈黙を言葉として、つまんだ指先にかかる静かな重み。美しかった。

店員から木の箱を受け取り、その中に入れたり、戻したりしてみる。紫色と乳白色の結晶がかわいい蛍石、日本海の濃い波と飛沫に似た青い石。指でひとつひとつに触れ、じっと見つめて話しかけた。かわいい。この子とあなた、仲良くできるかな。きれいだな。ゼリーに似た、澄んだ水色のフローライト。蛍石の小さな破片。ウニの骨も入れてみた。軽やかで頼りない、すぐ壊れてしまいそうな、綺麗な骨。

昼のひかりのあたたかな温度に浸りながら、水槽のようなお店の中をすいすいと泳ぎ、私と一緒にきてくれる石を探した。指に触れるさりさりとした感触、折り重なる色の深さ、閉じ込められた時間、そういったことを感じながら、問うて、返事を聞いた。そうして集まったみっつの石。

細やかな結晶の蛍石、海色のフローライト、少しぶ恰好な丸さのぶどう石。

箱の中で並ぶ姿がかわいくて気持ちが和む。石同士も仲良くなれそうな気がしたし、私はこの子たちを好きになっていた。私が石を呼んだのか、石が私を呼んだのか。この子たちと会話をしていると、脳の奥がゆるやかにほどけていった。高揚感と安心感をくるくると優しく混ぜた感じ。冬の冷たさを抜け春の芽吹きに気づくときと似た、蕾がほころぶような柔らかな心地よさがあった。

みっつの石は今、プレスバターサンドの箱を住み処としている。グレーの厚紙に蛍光オレンジのシールを貼ったパッケージに惹かれてとっておいた箱だ。お気に入りではあるけれども、光が入らなくて暗いので、もう少し日当たりのよい住み処を探したいと思っている。


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