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女性リーダーの「インポスター症候群」、どう乗り越える?

去る2023年12月、マーサー・ジャパンの皆さんにお話をする機会をいただきました。社内の female nework のイベントで、女性参加者が多かったです。事前に頂いた質問に私から回答したのち、草鹿社長とのディスカッションで深掘りしていきました。

その中に「女性がキャリアを形成していく、あるいはトップリーダーを目指すにあたって、インポスター症候群をどう乗り越えると良いか」という質問がありました。回答を考えるうちにインポスター症候群に関する整理が進み、乗り越えた方が良い場合(×)と、乗り越えなくて良い場合(○)があると考えるようになりました。

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Posted by マーサージャパン株式会社 - 組織・人事マネジメントコンサルティング on Wednesday, December 13, 2023

インポスター症候群とは

インポスター症候群とは、他人からの高い評価に対して、「そんな能力はない」「運がよかっただけ」「本当は能力がないと見破られてしまう」などと否定的にとらえる状況をさす。(略)女性に多くみられることから、性別役割分業の影響や「女性ならこうすべき」などのジェンダー規範が影響すると考えられる。たとえば、職場での昇進の際など、インポスター症候群に陥ることで、機会を断念したり、完璧を求めて無理を重ねたりなどの悪影響を及ぼすと言われている。

公益財団法人 日本女性学習財団

私はこれまでのキャリアや現在得ている機会・評価について「運が良かった」と思いますし、「能力が不十分なのに…」と感じることはよくあります。相手が褒めてくれていても「社交辞令だろう」と受け取るとき、それは客観性なのか、インポスター症候群なのか…

私を含む女性リーダーにインポスター症候群の兆候があるとすれば、その正体は何か。3つの可能性があると考えました。

ケース①:マジョリティーを基準に自己評価している→×

評価とは「あるべき姿」「目指す基準」と現状の差分です。男性リーダーしかいない職場で経験を積んできた女性が「男性っぽい」リーダー像を「あるべき姿」だと知らず知らずのうちに信じているとしても、不思議ではありません。その女性が「リーダーとして能力不足だ」と必要以上に自己評価を下げてしまうとしたら、それは自分にまったく合わないリーダー像を内在化してしまったから…ということは十分あり得ます。

この場合の「インポスター・シンドロームをどう乗り越えるか」というご質問の答えは、自分が内在化している「目指すべき姿」を知ろうとすることと、そして様々なリーダーのあり方を知ってもっと自分に合う「目指す姿」に置き換えること、になります。

実際、講演の参加者から「女性の先輩と仕事をしたことで、それまでリーダー=「マッチョ」というイメージが刷新され、こういうやり方でもリーダーができるんだ!と納得した経験がある」というメールを頂きました。

ケース②:人のお世話をする責任を勝手に引き受けている→×

10年ほど前、川崎貴子さんの「独身女性におくる「結婚向きのいい男」5つの特徴」というブログ記事を読んでハッとさせられたことがあります。

例えば、帰宅したら夫の機嫌が悪い(しかも原因は妻では無い)、そんな毎日、相当しんどいですよ。(中略)「結婚生活とは修行である。」と既婚男性はよくおっしゃってますが、そりゃあそうです。大人なんだから自分の機嫌ぐらいコントロールしろ!子供だと言い張るなら結婚するな!ってお話です。

そうか、家族の不機嫌は自分のせいではないのか…。救われた思いでした。

逆に言えば、私はどこかで家族や周囲の機嫌が良かったり悪かったりするのは、自分がなんとかしないといけないと思っていたわけです。

その数年後、「Women Rowing North」という本を読んで、こんな言葉に出合いました。私より20年くらい上の世代のアメリカ人女性が書いたものです。

私たち女性は、周りの世話をし、周りの責任を引き受け、周りの求めにいつでも応じるよう、育てられてきました。私たちは、自分を大切にすることを学ばなくてはなりません。

Mary Pipher, “Women Rowing North: Navigating Life’s Currents and Flourishing As We Age”

確かに、そうだ…と思ったんです。男女の役割分担意識とは「男性は仕事」「女性は家庭」の思い込みだという説明をよくききますが、実は「男性はお世話をされる側」「女性はお世話をする側」という思い込みでもあるのだな、と。

女性リーダーが周りからの評価は高いにもかかわらず、十分に役割を果たせていないと感じている場合、もしかすると「お世話係」という役割を無意識のうちに引き受けているのかもしれません。職場で不機嫌な人がいたら自分のせいだと気に病み、全方位に気を配れていない自分を責めている…といったことはないでしょうか。

ある女性リーダー向けの研修で「聴くとリーダーシップ」についてお話ししたところ、複数の参加者から「私は職場でも家庭でも、いつも聴き役。誰も私の話を聴いてくれないんです」という声を頂きました。一般向けの講演では男性参加者の方が多いのですが、そちらではそんな話は聴いたことがありません。みんなの聴き役、お世話役を引き受けようとしすぎて辛くなっている…そんな女性リーダーがインポスター症候群を感じるのかもしれません。

ケース③:謙虚である→○

私は、自分は謙虚でありたいと思っています。できていないから意識するのでしょう。特に知的謙虚さは大事にしたい。知的謙虚さとは、自分が分かっていることと分からないことを判別できる能力と態度です。そして知らないことは素直に知らないと言って教えてもらう、間違いが判ったらすぐに正す、サウイフモノニ ワタシハナリタイ。自己をメタ認知できている、と言ってもいいかもしれません。

職場によっては「上司は『知らない』と言ってはいけない」など部下に対して強い上司であることを期待するところもあるようです。私もそのような上司のもとで働いた経験があります。また、「男性の部下は何人も『どうしたら自分は昇格できるか』と尋ねてくるが、そうした女性の部下はほぼいない」というエピソードや、女性に対して「もっとガツガツと自分をアピールすべき、男性はそうしてるのだから」という助言を耳にしたのも一度や二度ではありません。男性は女性よりも自信過剰な傾向があることは、研究で示されています。(あくまで傾向の話です。)

もし自信過剰なあり方が是とされている職場で、その文化に合わせてハッタリをかましていた女性リーダーが、ある時から「能力がないと見破られてしまう」と恐れるようになったのだとしたら…?もしその人に「インポスター症候群をどう乗り越えたら良いか?」と問われたら、私は「乗り越えなくていいです」とお伝えするでしょう。出来ることと出来ないことの判別ができる謙虚さを発揮しているのですから。自分に嘘をつくことを是とするような毒性のある組織文化に魂を売る必要は全くない。

自分と向き合い、自分の内面を知り信念を変えるのは、葛藤が伴います。でも、そのような葛藤から逃げて、「ポジティブでいるべし」と虚勢を張り続けるのはもったいないですよね。

ちなみに、謙虚であることと自分を卑下することは、違います。卑下は、ひたすら自分を相手より劣っていると位置付ける態度です。客観的な判別能力はいりません。

自信過剰も卑下も、自分をメタ認知できていないという点では、同じように未熟です。

ここまで「リーダーを目指すにあたって、インポスターシンドロームをどう乗り越えると良いか」という質問を起点に、インポスター症候群と言われるものが本当は何なのか、考察してみました。

「①マジョリティーのありようを基準に自己評価している」「②他者のお世話をする責任を勝手に引き受けている」の2つは、男性優位な環境の中で女性が内在化した「あるべき姿」がインポスター症候群をもたらしています。「③謙虚なだけ」は、自分の本心に気づけたケースです。職場でどう言われようと、それはインポスター症候群ではありません。


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