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就活ガール#186  切羽詰まった人は他人を頼ろう


これはある日のこと、バイト先のコンビニで後輩の日野原さんと仕事をしていた時のことだ。今日も静まり返った店内で、隙を見て小さく華奢な身体が近づいてきた。

「先輩って、もう内定いくつか持ってるのに就活を続けてますよね。いつ終えるつもりなんですか?」
「分からん。受けたい企業って意外と後からでてくるんだよな。」
「そういう物なんですね。」
「うん。内定を取った瞬間は嬉しさでたまらないんだけど、しばらくするともっといいところがあるんじゃないかって思ってしまうんだよ。」
「なんかそれ、マリッジブルーみたいですね。」
「実際、内定ブルーなんて呼ばれてるらしいな。名前がつくくらいにはよくある思考パターンらしい。」
「初めて聞きましたが、ちょっと面白いですね。」

「で、まだ志望度の高い企業がいくつかあるから、もうちょっと続けるけど、さすがにそろそろ終わりそうではあるぞ。少なくとも同時並行で受ける企業は減ってきた。」
「一つ内定が出ると、そこより志望度が低い企業はもう受けなくていいですもんね。同じ以上の志望度か、志望度が明確に定まっていない企業だけ受ければよくなります。」
「それもそうなんだけど、既に募集してる企業が減ってきてるんだよ。」
「え、まだ4月下旬ですよ。3月から本格化して6月上旬まで続くはずなので、まだちょうど真ん中か、少し後半に入ったくらいじゃないですか?」
日野原さんは驚いた顔でそう言った後に、「もちろん早期選考などが行われてることは知ってますけど。」と付け足した。

「ああ、俺も驚いてる。周りの就活生もちょっとざわついている感じがするな。先輩達から聞いてた話とも違うから。」
「かなり加速度的に早期化してるんですね。1学年上の先輩って最も新鮮な情報を持ってるはずなんですが、それでも古くなってしまってるんでしょうか。」
「うん。少なくとも選考スケジュールについては、あまり信用して油断しすぎない方がいいと思う。前々年と前年を比べた時よりも速いペースで、前年と今年は加速してる。」
「それでは、これから挽回したいと思ってる人はどうすればよいでしょうか?」
「うーん。俺もまだ就活生の身分だからあまり偉そうなことは言えないんだけど、この辺からはもう手段を選んでいられないと思う。」
「もう少し具体的に聞きたいです。」

「そうだなぁ。例えば、ウェブテストで落ちまくってる人とか、ウェブテストがある企業をはじめから敬遠して受験していない人は、とりあえず解答集を買ったほうがいいだろうな。あるいは周囲の人や有料の代行業者に頼むのもアリだと思う。」
「前に、解答集は自分で作った方がよいっていう話をしていたのを聞きました。」
「うん。解答集ってすぐに古くなるから、自分が受験する時に毎回録画して、それを一覧化するのがいいと思う。ただ、今からそんなことをやってる時間はないんだよ。」
「たしかにそうですね……。」
「だから、ウェブ上の業者でも、大学の友達でも、就活を通して知り合った人でも、なんでもいいから頼って不正な手段で突破すべきだと思う。」

「不正な手段ですか。はっきり言いますね。」
「うん。就活生は人生かかってるからな。正義や正論を追求してウェブテストで落ちてる場合じゃないんだよ。それに、今さら試行錯誤とか練習とか勉強とかやってる場合でもない。正直、就活を満足いく結果で終わらせられるかって人生がかかった問題だろ。」
「はい。いざという時に非情な手段を取れるのも必要な能力だと思います。」
「うん。後ろめたい気持ちがあったとしても、それは今まで自分がサボってきたことによる因果応報だから、そういう感情を受け止めて、背負って前に進むしかないんだ。そして、もう二度と事前準備を怠らないと誓うことだな。」
俺がそういうと、日野原さんが思わず噴き出した。
「かっこよく言ってますけど、結局カンニングしてその場しのぎで切り抜けようって話ですよね。」
「おう、そうだ。」
「まぁでも、先輩が仰ることが真実だとは思います。今はウェブテストよりも優先すべきことがありますね。」

「うん。それで、エントリーシートについても、他の人に書いてもらうといいと思う。」
「エントリーシートもですか……。」
「エントリーシートもちゃんとした日本語でちゃんとした文章が書けていれば、Fラン大学でも半分以上は通るんだよ。いや、もっとだな。7割くらいは通ると思う。中小企業だとほぼ落ちないと言っても過言ではないな。」
「結構高いですね。ちゃんとした文章が書けるだけで7割も通るんですか?」
「それだけ論外レベルのエントリーシートが多いってことなんだよな。自分では気づいてない人が多いと思うんだけど、文章能力が低いのはもちろん、特に志望動機なんかは内容もひどいものが多い。」
「志望動機は他の質問と違って使いまわせないですもんね。」
「そうそう。だから他の人の添削を受けてないんだと思う。自己PRとかは一度添削を受けたものを、そのまま使いまわしてるんじゃないかな。」
「なるほど。それに、この時期になると志望度が低いところにも出さないとダメですしね……。どうしてもうまく志望動機を書けない気がします。」
「ああ。だからこそ志望動機はとにかく差がつく質問だと言える。志望度が低くても、いろいろと調査していれば書けるから結局はやる気の問題だし、頑張って仕上げないとな。」
「それで、どうしても無理なら他の人に書いてもらう、と。」
「うん。大学内の就職活動を終えた友人とかに相談するといいんじゃないかな。最初は気まずいと思うけど。」

「そういうのって、内定がある側からするとどう話しかけていいか分からなかったりするんじゃないですか? 助けてあげたいけど嫌みと思われたくない、みたいな。」
「そうそう。だから、内定が無い側の人から積極的に相談する方がいいと思う。いろいろ人間関係がぎくしゃくしがちなのはわかるんだけど、さっきも言ったけど、もう非常事態だからな。」
「はい。エントリーシートとウェブテストはそんな感じで他人を頼るとして、面接はさすがに無理ですよね。」
「うん。だから、面接対策に特化するんだ。もちろん、これも内定者に頼んで練習に付き合ってもらったほうがいい。」
「はい。」
「あとは、企業検索とかもできれば手伝ってもらったほうがいいだろうな。自分にしかできないことだけを自分がやるようにして、それ以外は他人を頼るしかない。」

「わかります。なんか結局、もう相当追い詰められてるからどんな手でも使えってことですよね?」
「うん。今内定が無い人は結構ヤバいという自覚を持った方がいいと思う。もちろん、ちゃんと選考が進んでいて内定取れそうな見込みがある人はそういう自覚があると思うから、決して慌てなくていいんだけど。」
「その辺、難しいですよね。自分がたまたままだ内定が無いだけなのか、これからも内定が取れなさそうなのか。その判断を客観的に行うのは結構な冷静さが必要そうです。」
「そうかなぁ。」
「違いますか?」

「俺もあまり人のことは言えないんだけど、ダメな人って、だいたいの場合、自分がダメという自覚がある気がする。もちろん、そもそも就職活動自体を始めてなくて、そのことについて何も思うことがないっていう真性のダメな人もいるんだけど、そういうのは例外な。」
「うーん。言われてみればそんな気もします。」
「最低限の情報収集とかをしてスタートラインに立っている人の場合、ほとんどは自分が改善すべき点がわかってると思うんだよな。」
「たしかにそうかもしれません。わかっていてもサボってしまうとか、恥ずかしくて他人に面接練習を頼めないとか、ウェブテストのような落ちてはいけないところで落ちてしまうとかですよね。」
「うん。」
「わかりました。いろいろとありがとうございました。」

そこまで話したところで、会話を終えた。今日は、今切羽詰まっている人がどういう手段を取るべきかについて、俺が一方的に話すことになった。本来であれば、もっと前からウェブテストの対策をして、インターン選考を含め多くの場でエントリーシートや面接の練習をして、OB訪問を通じて話を聞いたりアピールのネタを集めて、そのうえで選考に挑むというのが王道だ。しかし、ここから挽回をするためにはそれをやって板はもう遅い。プライドとこだわりを捨て、周りの人をできるだけ頼って、とにかく実利を追求するのがよいのではないかと思う。

内定先の社格が違いすぎると、入社後に疎遠になるという話もよく聞く。将来の友人関係を良くするためにも、今はうまくいっている人に頭を下げるのが良いだろう。そんなことを思いながら、一日を終えるのだった。

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