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Knight and Mist第六章-6山小屋にて

数時間後、山小屋は喧々轟々、侃侃諤諤の議論がとりかわされていた。

イスカゼーレのお姫様アザナル、魔王を倒した勇者キアラ、そしてスループレイナにもその名を轟かせる騎士イーディス。

その三人がああでもない、こうでもないと皆が口々に言い合う。

「あれは絶対に魔霧ミストだったって! 魔族もいたんだぜ!」

「でもそれはありえないわ。魔霧ミストを生き抜いた人間なんていないのよ!」

「こうして飛ばされて行方不明になってるんじゃ?」

「こんな次元の歪みが起こればイスカゼーレは検知できます!」

「ハッ! どこまでそれも正確なんだか。ザルなんじゃねーの?」

「なんですってー! あそこのハルカとかいうやつを発見したのもあたしたちなのよ! バカにしないで!」

ハルカの方を指差して怒鳴るアザナル。

「おいおいアザナル、そのへんにしとけよ! いくら信じられないことが起きたって、猛犬と狂犬病が騒いでるみたいにならなくてもいいじゃねーか!」

呆れたように言ったのはキアラだ。

「とんでもない! 魔族なんておおごとなんだからね! ただでさえドラゴンが出て大変なときに……」

アザナルは言って爪を噛んだ。

「ねえ、イーディスとかいうやつ! そのエルフの剣とやらはどうしたのよ!」

「お前に言うか、バーカ!!」

ハルカはその様子をおどおどと見ながら、セシルのことを思った。

ハルカの横になっているソファ。その目の前ではぜる暖炉の火。

外は真っ暗で、石の壁から冷気が吹き込む。

遠くで獣の吠える声がする。

山小屋の周囲は深い森だ。セシルが近くにいるのなら、とっくに見つけてくれてもいいのに……。

(肝心なときになんでいないのよ……!!)

そもそもセシルを信じてもよいものなのか。

ハルカはこめかみに手をやった。

信じるほかないからここまできたけれども、本当に彼のことを信じていいのだろうか?

何かハルカに思い入れがあるようではあったが……

(なんでいないのだろう?)

そう考えると気持ちが激しくざわついた。そのことも考えたくなくて、ハルカはマントを深くかぶり、眠りについた。

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