Knight and Mist第四章-1 死闘の果て

冷たい感触がして、目が醒めた。

「あっ、ダメでしたか?」

柔らかい日差しがハルカの顔にかかる。

「もう峠は越えました。死の槍の毒も抜けましたから、もう大丈夫ですよ」

全身が怠い。ハルカはなんとかして自分の状況を理解しようとした。だが頭が猛烈に痛い。

「あの、わたしです。レティシアです。わたしが分かりますか?」

ハルカはわずかに顔をあげ、眩しい金髪の美少女を見上げた。心配そうにしながら、精一杯の微笑みをみせている。

その顔を見てドッと安心感が押し寄せた。

よかった、無事だったんだ、そう言おうとして、声が出ないことに気づく。

「ひどい重症でした。高熱がつづいて、まるまる一週間は寝ていましたよ。意識が戻ったなら、もう大丈夫です」

「……は?」

「はい?」

「セシル、は?」

ハルカの問いにレティシアが苦笑する。

「彼も負傷していましたが、無事です。貴女を治療するといってきかなくて。腕ずくでベッドに縛り付けなきゃならなかったんですよ」

レティシアはフフッと微笑んだ。

「よほどハルカのことが心配だったのね」

「セシルも、意識が?」

「セシルさんは軽症でしたから、ご自身で治療されました。わたし初めて見ました。あれが魔導なんですね……あ、っと、前に鎖を破壊したのも魔導なのでしたっけ」

テヘヘ、と笑うレティシア。

ハルカは部屋のなかを見回した。

「セシルはいないの?」

「さっきまでいたのですが。今は別の方の治療にあたられています。ねえ、詳しいことはあとで話しますから、今は休んでください」

ハルカはうなずいた。

目眩がひどく、落ちるようにして意識を失う。


次に目を開けたとき、心配そうな顔があった。

「スコッティ! 無事だったのね!」

ハルカはガバッと起き上がって言った。

「おいおい、傷が開くぞ? 無事だったか、はこっちのセリフだよ」

スコッティが苦笑して言った。

「あのあとどうなったの?」

「それは大広間で説明するぞ、スコッティ」

ブスッとした声が聞こえた。

「シルディア?」

「おお、ハルカ。グレートマザーからそなたのことをあずかった。今はれてぃしあの砦に皆で匿ってもらっているでの」

「そっか……エルフの里は? グレートマザーは?」

「………………」

シルディアは下を向いておしだまった。

「リルさんのところへ連れて行こう。ちょうどみんな回復したしな。モンドのやつなんか危なかったんだぜ」

「モンドが危なかったの?」

スコッティが親しげにモンド、と呼ぶのに違和感をおぼえつつ、尋ねる。

「あいつ運悪くバックドラフトにやられてさ、こんがり。シルディアがいなかったら死んでたな」

「運が悪いのにギャンブル中毒なのね……モンドって……」

「まあ、とにかく。シルディア、レティシアを呼んできてくれ」

まもなくレティシアがやって来て、ハルカはまたしもレティシアにおんぶされることとなった。

「あの、ほんとにわたしで大丈夫です? 先ほどからどこからかすごく殺気を感じるのですが……」

「ただのバカの妬みじゃ。ほっとけぃ、れてぃしあよ」

そうして再び聖堂へと向かう。

大きな扉を開き、静謐な空間が広がる。

ここは何も変わっていなかった。

奥には天井から光。その下に聖騎士姿のリルさん。

そしてそのとなりにーー

「イーディス!?」

聖騎士の隣に、なんと《紅の炎》赤い騎士、大剣を背負うイーディスの姿があった。


つづき


前回


最初から読む


目次

登場人物




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?