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『鼻かすめる音』

気持ちよく晴れ渡っていても、なにか陽の加減が違う。
まだ湿度と熱の残る風の中に、ひんやりとしたものがひと筆ほど混じる。
市松模様のような田畑に目を凝らすと、さらさらと今年の実りが揺れていた。

夏が過ぎると、どうにも世の中が薄寂しい気配に満ちてくるのはなぜだろう。
夏には夏の、冬には冬の得るものがある。
それは味覚であったり、誰かとの再会であったり、手を伸ばして求めたものであったり。
日ごと肌に感じる温度が一度、二度と下がるたび、人が思い描くものの温度も下がっていくからだろうか。
季節の揺らぎに左右されてはいられない。

足元には一枚、また一枚と舞い落ちた葉が重なる。
過ぎた時間を踏みしめ、また次の実りが訪れる。
ギラギラとした季節に囚われている間に、もしかすると、新たな実はすぐ目の前に育っていることもあるかもしれない。

何も変わらない。
メモ帳の裏表紙は、いつも変わらぬ余白を差し出してくれる。



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