憧れは傍に置いた瞬間色褪せる

パンプスの踵のゴムが取れてる事に気付くと、どうしてこんなに情けない気持ちになるのか。
恥ずかしい気持ちになりながら足早に駅に向かった。しかしそのせいで余計に足音が響く。周囲に自分がダメな人間だと主張しているようだ。

二十代後半から、一気に色んな事が変化した。その一つがこのパンプス。
高い訳でもなく、ぺたんこでもない。地味で、でもそこそこ歩き易い普通の靴。
誰から見てもそれなりに感じ良く見えるように買った、そのヒールのゴムが取れた。
カツカツカツカツ。
自分の足音がうるさい。
コンクリートと金属の立てる耳障りな音を聞いていると、自分が持ち物をケアする事も出来ないだらし無い人間だと認識させられるかのようだ。
見た目ばかり整えて何も伴っていない。
会社員とは、三十代とはこういうものなのだろうか。
昔は膝下のタイトスカートもパンプスも絶対私に縁がないものだと思っていた。
ずっとミニスカートを履いているとまでは思っていなかったけれど、大人の象徴とも言えるそれ等のアイテムを自分が身につける日が来るなんて。


東京の街がうるさくて良かった。
誰も私に気付かないでくれる。

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