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【旅する日本語コンテスト参加作】苛烈な花

夏のまぶしさが、そこかしこで乱反射しているようだ。土地勘のない八月の田舎道をだらだらと歩いていると、金のあぶらをしたたらせているようなひまわりに行き当たった。照り返す太陽に負けまいと、しゃんと立っている姿を見て、心を打たれる。

青い空も、緑の山も、目を刺すほどの原色だ。かぐわしい夏の香気がむやみやたらに放たれていて息苦しいほどである。山のほうに小さく見えるトンネルから、ミニチュアほどの赤い電車が現れて、線路を鳴らす車輪の音がこちらまで響いてくる。

ふっと景色が揺らいで見えて、かげろうが立っているのだと気が付いた。ゆらゆら、ゆらゆら、炎暑のなかを、私もゆれながら歩いて行く。

西洋の名画家の見たひまわりも、このように苛烈な色をしていたのだろうか。旅の中にいながら、また別のところに旅をしたい、と思って笑顔になる。知らない町の知らない景色だけが、こうして私の中に、忘れ難い色合いをただ残していく。

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