【旅する日本語コンテスト参加作】父と母の思い出のパフェ
部屋の片付けをしていたら、タンスの奥から一枚の写真が出て来た。フルーツパーラーの店内、うずたかくクリームが積まれているフルーツパフェを撮った写真だ。だいぶ色あせてしまっているその写真に、どこか郷愁を覚えて、母に見せると、母は手を打って言った。
「その写真、私がお父さんと新婚旅行に行ったときのものだわ」
へえ、そうなの、と答えると、私はこそばゆい気持ちになる。若かりし頃、まだ私も生まれてなかった頃の母と父は、どんな夫婦だったのだろう。なんで写真がパフェだけなの、ほかにはないの、と聞くと、母は照れたように笑った。
「私がその頃は若くて、写真を撮ってもらうのが恥ずかしかったの。食べ物ならいいんだけど、一緒に自分が写るのは嫌、だなんて駄々をこねてね。今思えば撮ってもらえばよかった」
玄関先から「帰ったぞ」という父の声が聞こえて、私は小走りで写真を見せに行った。父の反応を楽しみにしながら。
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