ラスト

イギリス旅行記7:リンゴジュース危機

よく寝付けないまま、朝の五時にセットしたアラームが鳴りました。窓の外は真っ暗です。

私「ロンドンシティー空港から、9時半出発の便だから、二時間前には着いてなきゃ」

夫「眠いよー」

急いで身支度をして、荷物を持って、バイロンホテルとさようならです。受付も暗く、スタッフがいなかったので、置手紙を書いて、ホテルから出て行きました(宿泊料金は支払い済)

まだ暗い街並を、地下鉄の駅に向かって歩きながら、頭がさえざえとしてきます。もう、この国での楽しかった日々とお別れです。

朝早いはずの地下鉄なのに、出勤するのでしょうか、乗客はまばらですがちゃんといました。私たちは、少しずつ明るくなってくる外の景色を見ながら、ロンドンシティー空港に向かいます。

ロンドンシティー空港には、7時過ぎに着きました。さあ、結局、腕に抱えて持ってきたニコライ作の絵を機内に持ち込めるか、聞かなくてはなりません。

チェックイン列に並ぶと、空港の黒人女性スタッフが声をかけてきました。

スタッフ「あなたたち、9時半の便でしょう?まだ並ぶのが早すぎるわ!今は8時発の人たちを先に案内しているのよ!」

とても元気な彼女に、夫が交渉を始めました。

スタッフ「この絵を機内に持ち込めるか?OK、大丈夫よ!普通の手荷物と一緒に、飛行機の中に持っていって乗ればいいわ!」

私と夫「!!!」

絵を持ち込めなかったら、空港に置いていくしかないね、と話していたので、本当に良かったと思いました。

しばらく待って、大きい荷物を預け、手荷物検査の列に並びます。私は何の問題もなく通れましたが、夫がひっかかりました。手荷物を開けて、空港スタッフと話してから、戻って来た夫に聞いてみると、ビタミンサプリの瓶がひっかかったそうです。

夫「液体でもないのになんでや…」

手荷物検査も無事終えて、後は出発便に乗るためにどこのゲートに行けばいいか、出発ロビーの中で電光掲示板に情報が乗るのをソファで待っていたときに、この度最大のトラブルが起きました。

夫が空港内で買ってきてくれたリンゴジュース。500ミリサイズのペットボトルに入っていたので、少しだけ飲んで、フタを閉めて、ナイロンのショルダーバッグに入れていたんです。

それを、また飲もうと取り出してみると、やたら軽い。嫌な予感に、バッグの中に手をつっこんでみると…

私「バッグの中にリンゴジュースの池が出来てる!!!」

夫「ああ、こっちのペットボトルって、日本のとは違って、しっかりフタがしまらなかったりたまにするから、バッグに入れちゃだめなんだよ☆」

私「先に言え―――!!!」

パスポート、搭乗券、お財布、財布の中のお札、地球の歩き方イギリス編、それらがすべて、リンゴジュース浸しになってしまうという、大惨事。

と同時に、出発ゲートが決まったことが、電光掲示板に乗りました。しょうがないので、リュックの中につめてあったTシャツをタオル代わりにしてリンゴジュースをぬぐい、ほうほうの体で出発ゲートに向かいます。

この旅、最大のやらかした感を、まさか最終日空港で感じるとは思いもしませんでした。

ロンドンシティー空港で乗り込んだアムステルダム・スキポール空港行きの飛行機は、出発が非常に遅れ、30分以上も、機内で待機しながら離陸を待たなければなりませんでした。

それでも、無事に飛び、アムステルダムで二時間くらい待った後、スキポール空港から、またオランダ航空のジェット機に乗り、関西国際空港へ向けて、出発することができました。

帰りの飛行機でも、機内食が最初と最後に出ました。帰りの飛行機は、行きに比べて、やたら上空で揺れます。怖いと思って、夫に聞きました。

私「なんでこんなに揺れるのかな?行きと違って」

夫「風っていうのは、西から東に吹くやろ。いまヨーロッパから、日本に向かっているということは、西から東へ吹く風の、気流に乗っているってこと。気流に乗るから揺れるけど、その分スピードは速い。目的地にも、早く着くはず」

行きの飛行機ではほとんど寝れなかったのですが、帰りの飛行機では、行きよりも慣れたのか、多少うとうとできました。

日本に無事に着いたときには、安心してちょっと気が抜けました。10時間以上のフライトの後で、すぐサンダーバードで三時間かかる金沢への帰還が出来るかな?と危ぶんでいたのですが、旅の興奮のせいか、機内で少しは寝れたせいか、それほど起きているのも動いているのも苦痛ではありませんでした。

大阪駅から、金沢行のサンダーバードはちょうどいいタイミングで、ほぼ待たずに乗れました。発車ぎりぎりに、駅弁をキオスクで買って、乗り込みました。

サンダーバードが動き始め、流れて行く日本の街の景色は、イギリスとは全然違うもので、んだか自分のふるさとの国なのに、とても感慨深く感じました。

私「お弁当おいしい…なんのへんてつもないのに、こんなに日本のお弁当と伊藤園のペットボトルのお茶がおいしいと思ったことはない!」

夫「いま泣きそうになりながら言ってるその感想が、この旅行のハイライトだね」

というわけで、私のイギリス旅行記は、このあたりでそろそろおしまいです。初めての長期海外旅行が、余りに楽しかったので、ついついこんなに長い旅行記を書いてしまいました。最後までお付き合いいただいた方々、本当にありがとうございます。

つまみ食いしてところどころ読んでくださった方も、とっても幸せです。お弁当美味しいとか最後にぬかしていますが、イギリスは、本当に伝統と歴史を重んじる、素晴らしい国でした。本当に機会があれば、また行きたいです。

私は、小さい頃から英語は勉強してきたけれど、国際社会って言葉では聞いて頭ではわかってても、実感があまりありませんでした。でも、ロンドンを歩いてみて、その街で日々の暮らしを営んでいるいろんな人種の人々を目の当たりにして、言葉では上手くいえないけど、深く何かが胸に刻まれました。

「ふるさと」って言ったときに、石川県だとか、日本だとか、県境、国境で囲まれたその中を普通にこの国で暮らしていたら考えてしまうけど、ほかの国に暮らす人々も、同じ地球という星をふるさとに持つ、仲間なのだよな、っていうことが実感できました。

日本に生まれて、普通に日本の国の文化が好きで、日本語を愛していて、大好きな日本語で何か表現したいなと思っていたのが、今までの自分でした。でも、それは何が根拠だったのかなって、今では自分に問うてみたい気分です。

自国文化を愛するのは、産んでもらった家族を無条件に愛するのと、同じようなことで。それは、微笑ましい温かい感情ではあるけど、そこにとどまったらいけないのかもしれません。

赤ちゃんがやがて成長し、家族のほかに友だちをつくろうと思うのと同じように、人は自分とは違う匂いのものを、求めていくのが大人になることなのかもしれません。自分の家族も愛し、大切にしつつ。それが相互理解ということなのではと思います。

自分の国を大切に思うように、他国の文化や人にも、関心を持てたら。大切に思って、尊重できたら。そのために、外国語や外国文化を学ぶ意味があるのだと思います。

とりあえず、外国映画や翻訳作品を愉しむことから、まずは始めようかな、と思った、7日間にわたる旅の終わりでした。(完)

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