ふたりぐらしごはん弥生1週目

3月1日 今日の食事当番:健太

ちひろと結婚して七年目の春を迎える。僕たちは夫婦で小さな塾を経営していて、二人とも家で仕事をし、家で食事をとる。「奥さんと一日じゅう一緒にいて嫌にならないの?」などと口さがない元同僚の悪友などに聞かれるけど、そう思ったことはない。家事はきっちり分担していて、食事は毎日交代でつくっている。当番制という奴だ。僕たちは車を持たないから、夫婦で毎日スーパーに買い出しに行く。ちひろは「スーパーマーケットってたくさん生鮮食品が並んでいるからか、行くと元気になる」と笑う。今日は朝漁れの新鮮なイカを見つけて、ほくほくだ。菜の花もあった。今日から三月だ。

・菜の花と桜エビの混ぜご飯
・イカと野菜のマリネ
・ふろふき大根(柚子味噌を添えて)
・めぎすのすり身と生若布の粕汁



3月2日 今日の食事当番:ちひろ

健太が「猫を飼いたい」と朝から言っている。「うーん、お世話も大変だし、仕事に差し支えないかなあ」と私はためらっている。健太の「〇〇ほしい」はしょっちゅうのことなんだけど、実際に購入するときはひどく吟味をする彼なので、私は言いっぱなしにさせている。そのうち、彼は「そんなこと僕言ってたっけ?」というオチになるのが見えている。買い物帰り、近所に梅の花が咲いていた。白梅と紅梅。私は、猫はいいから、うちの庭に何か花の咲く木を植えたいなあと思った。

・白ご飯にきゅうりと大根の糠漬け(手作り)
・牛肉とごぼうのしぐれ煮
・こんにゃくと豆腐の田楽
・豆腐となめこのお味噌汁



3月3日 今日の食事当番:健太

桃の節句、ひなまつりの日がやってきた。僕たち夫婦に子どもはまだいない。こればかりは授かりものだから、僕たちにはどうにもできないけど、きっと娘がいたら、こういうときは娘のためにもご飯をつくるのが楽しいだろうなあと僕は思う。とりあえず、うちのお嬢様であるちひろのために、僕はひなまつりらしいメニューを考える。夫婦とも同じくらい料理が好きというのは珍しいかもしれない。関西出身の僕のつくる料理は比較的薄味で、北陸で生まれ育ったちひろの味付けは僕のよりちょっと濃い。寒い地域のほうが味が濃い目なんじゃない、とちひろが前に言っていた。

・ミニ手毬寿司
・鶏肉の柚子胡椒焼き
・もやしとキュウリとハムの和え物
・はまぐりのお吸い物(柚子のかけらを浮かべて)



3月4日 今日の食事当番:ちひろ

しばらく和風のものが続いたから、何か洋風の夕ご飯がいいな、と私は洗濯物を干しながら考える。今日は雲一つない空模様で、ぴかぴかの太陽がまぶしい。近所の小学生たちの騒がしい笑い声が、ベランダの外から聞こえてきて、私の気持ちもなごむ。空き家となっていた一軒家を格安で買って、もちろんリフォーム会社にも入ってもらったけど私たちの手で直したりきれいに壁を塗ったりした。この家に、健太とずっと住みたいな。それが私のささやかな夢だ。

・菜の花とホタルイカのペペロンチーノ
・鶏と茄子のトマト煮
・野菜のちぎっただけサラダ
・ヨーグルトムース(市販)



3月5日 今日の食事当番:健太

ちひろと図書館に行って、本をどっさり借りてきた。料理の本に、経営の本に、小説など、いろいろ。ちひろも僕も本が大好きだ。ただ、夫婦で塾経営といってもかつかつだし、二人の楽しみである食事代はきちんと確保したいので、本は図書館で借りることが多い。図書館の椅子に並んで腰かけて、目の前に積み上げた本を一冊ずつゆっくり読む。帰ったら、子どもたちが塾に来るから、僕はその前にプリント制作にかからなくてはいけない。春のひざしが、図書館のガラス窓を通して、僕らに降り注いでいる。

・白ご飯(キムチ納豆と一緒に)
・塩肉じゃが
・スナップエンドウと卵の塩コショウ炒め
・キャベツと油揚げのお味噌汁



3月6日 今日の食事当番:ちひろ

私たちの塾は小中高生向けだ。朝は健太と買い出しに行ったりプリント作成をしたりするけれど、放課後ともなると、この一軒家は子供たちでいっぱいになる。「けんたせんせい」「ちひろせんせい」と子供たちが呼ぶ声を、最初はくすぐったいと思ったけれど、今ではもう慣れた。子供たちがすっかり帰ってしまった夜八時頃から、私たちはいつも食事の準備をする。健太が「今日は久しぶりに飲みたいから、酒のつまみになるものを作ってほしいな」と言ったので、私は冷蔵庫を漁って献立を考えた。

・出し巻き卵
・漬物いろいろ
・豚バラの野菜巻き(ごぼう、いんげん、にんじん)
・温豆腐(葱とショウガを乗せて)
・菊姫(日本酒)
・鮭フレークのお茶漬け



3月7日 今日の食事当番:健太

昨晩はちひろと菊姫を飲みながらだらだら夜更かしした。映画見たい、とちひろが夜中に言い出して、二人でテレビでやっていた深夜映画を一緒に楽しんだ。「夜更かしって子供のころはすると怒られたから、大人になってよかった」とちひろは笑っていた。大人だから、毎晩の食事にだって遊びを取り入れたっていい。それが二人の共通意識だから、僕はちひろが妻でよかったなと思う。二人でスーパーに行って、ちひろがライスペーパーを見つけて目を輝かせた。「ねえ、ひさしぶりに健太のアジアン食堂やってよ」そう言われたからには、腕をふるうしかない。

・生春巻き(エビとパクチーと春雨で)
・パッタイ(タイの甘辛い焼きそば)
・牛肉とセロリの炒め物
・すっぱくて辛いトムヤムクン風スープ


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