13歳の夏、ドラマの中のあの恋と人生の分岐点

いまではめっきりドラマを追いかけられなくなった私だが、中学生のときは、実はドラマをときどき見ていた。その中で、いまでも記憶に残る忘れがたいドラマがあって、今日はその話をしたい。

脚本家北川悦吏子さんの「ロングバケーション」が大ヒットした1996年の翌年、私にとって結果的に人生で一番思い入れがあるといえる恋愛ドラマを、13歳から14歳になる歳に、私は観た。

中居正広さん・常盤貴子さん主演の「最後の恋」というTBS金曜ドラマ枠の作品。このドラマの脚本も、北川悦吏子さんだった。

簡単なあらすじをいうと、弟の手術代のために、風俗店で働くことにしたアキ(常盤貴子)が、医学生の夏目(中居正広)と出会って恋愛する話。

ラブシーンのあるドラマに、毎回ドキドキしながら、親に隠れてこっそり二階で見ていた。いま思えば13歳が見るにしては、過激なシーンもあったように思えるが、あの多感な時期に観られてよかった。ビデオテープが当時はまだあり、それに全話録画したことも覚えている。

店で客を取るたびに、写真の中の自分をマジックで黒く塗りつぶしていたアキに、夏目が「こんなことしちゃダメだよ」というシーン。店で稼いだお金を「捨てたい」といったアキに、夏目はアキとバイクで二人乗りをして、道路に紙幣を撒いていくシーン。アキのつらさを慮って、夏目が涙を流すシーン。

好きなシーンは山ほどあって、録画を繰り返し見たからわりと覚えていて、いまでも断片的に「ああ、あそこも好きだったな」と思い出すことができる。

そして、小田和正の「伝えたいことがあるんだ」という主題歌が、このドラマにぴったりで、本当に何度も何度も聞いた。

歌詞の中のこの一節が大好き過ぎた。

この夏がくるずっと前から きっと時はここへ向かって流れてた ふたつの道がひとつになる ここからは君をひとりにさせない

ドラマの余韻にも、曲の余韻にも何度もひたった私は、いつしか、心のなかで「この夏」をずっと待っていたような気がする。

自分の運命の、重大な分岐点となる「この夏」を。

13歳の夏は、13歳なりに大変なことが多かった。いじめられたこともあったし、親とは反抗期のさなかであまり仲が良くもなかった。

何もかも、しんどい中で、夜のドラマで観る大人の恋は、自分のなかでの遠い光の点に見えた。

私にもいつか「この夏」が、私と道をひとつにしてくれる「誰か」が、いつかきっときて、何かが変わる、そんなことを期待した。

「この夏がくる」というフレーズにこめられたたしかな希望の予感に、救われていたように思えた。

「ここからは君をひとりにさせない」という強い言い切りの言葉が、ドラマのシーンとあいまって、孤独ばかり感じた中学生時代の私の、一抹の光となっていた。

結果的に、大人になってみて「この夏がきてあの人に会って運命的な恋をした」などという瞬間は、私の人生には訪れなかったけれど、夏が分岐点になることって、よくあった気がした。

東京に行くことを決めた18歳の夏。図書館へ「来ませんか」と採用の電話をいただいた20代後半の夏。そんな夏たちのように、今年も。

「この夏がくるずっと前から きっと時はここへ向かって流れてた」

そう思える特別な夏の真っただ中に、今年の私もいるように思える。

いつだって「この夏」を待っているし、どんな夏も特別な「この夏」にしていきたい。


最後の恋のドラマ、いまから20年も前ですが、めっちゃいいのでご紹介しますね!







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