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【連載小説】冬嵐

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【あらすじ】海岸清掃ボランティアにいそしむ「俺」は、十二月の冬の海の清掃中に、浜辺に女の子が倒れているのを見つける。その女の子の言動は、かつて「俺」のそばにいたひとにとても似てい… もっと読む
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記事一覧

【小説】冬嵐 第1話「拾い物」

十二月の海は、ブルーグレーの色に波立っている。寒さに耳がこわばるのを感じながら、遠くの水…

上田聡子
5年前
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【小説】冬嵐 第2話「犬や猫じゃないんですけど」

第1話「拾い物」 並んでカウンター席に座った俺と女の子の前に、熱いラーメンのどんぶりがど…

上田聡子
5年前
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【小説】冬嵐 第3話「日の出湯」

第1話「拾い物」 前話「犬や猫じゃないんですけど」 日の出湯に着くと、文乃と文乃の夫であ…

上田聡子
5年前
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【小説】冬嵐 第4話「朝が来る」

第1話「拾い物」 前話「日の出湯」 俺が脱衣所から銭湯の入口付近へ戻ると、茉奈はもう湯か…

上田聡子
5年前
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【小説】冬嵐 第5話「もう誰も」

第1話「拾い物」 前話「朝が来る」 十二月の総務課は、いつもに増して忙しい。俺の職場は、…

上田聡子
5年前
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【小説】冬嵐 第6話「おでん鍋」

第1話「拾い物」 前話「もう誰も」 十二月第三週の週末、俺はまた海岸掃除に出かけた。寒風…

上田聡子
5年前
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【小説】冬嵐 第7話 「こんなに弱くて」

第1話「拾い物」 前話「おでん鍋」 言葉を切った茉奈に、俺は、なるべく怖くないような口調で、話しかける。 「それだけか?」 「え?」 茉奈の黒々とした目が、俺を見返し――少し視線が泳ぐ。 「海で、転がってた理由。――なにか、よっぽどのことがあったんじゃないのか?」 茉奈に問いかけながら、俺はまた光希のことを思い出していた。 光希が、風呂場で手首を傷だらけにするたびに、俺は、根気よく、粘り強く、何が彼女を傷めつけたのか、知ろうとした。それが恋人の務めだと思っていたか

【小説】冬嵐 第8話「忘年会の夜」

第1話「拾い物」 前話「こんなに弱くて」 マガジン「連載小説・冬嵐」 課の忘年会の日は、…

上田聡子
5年前
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【小説】冬嵐 第9話「缶紅茶」

第1話「拾い物」 前話「忘年会の夜」 マガジン「連載小説・冬嵐」 島村を振り切ってタクシ…

上田聡子
5年前
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【小説】冬嵐 第10話 「クリスマスケーキ」

第1話「拾い物」 前話「缶紅茶」 マガジン「連載小説・冬嵐」 年の瀬が迫り、粉雪が舞うよ…

上田聡子
5年前
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【小説】冬嵐 第11話「年末」

第1話「拾い物」 前話「クリスマスケーキ」 マガジン「連載小説・冬嵐」 短大の勤務も十二…

上田聡子
5年前
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【小説】冬嵐 第12話「暗い海」

第1話「拾い物」 前話「年末」 マガジン「連載小説・冬嵐」 年が明けて、兄夫婦と、甥の朔…

上田聡子
5年前
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【小説】冬嵐 第13話「残業」

第1話「拾い物」 前話「暗い海」 マガジン「連載小説・冬嵐」 一月初旬の職場は、年末年始…

上田聡子
5年前
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【小説】冬嵐 第14話「風邪」

第1話「拾い物」 前話「残業」 マガジン「連載小説・冬嵐」 光希の墓のある山寺は、石階段すらも雪で埋もれて、おまけに吹雪で視界が悪く、彼女の眠る場所にまでたどりつくのに、ひと苦労だった。二月十日。今年も光希の命日がやってきた。一歩一歩、重い足を踏みしめ、雪にあゆみを邪魔されながら、階段を上り切り、小さな石づくりの墓から、雪を払ってやる。 線香をつけたかったが、例年のごとく吹きつける雪まじりの強風で叶わない。ただ、手袋をはずして、手を合わせて、光希がいまもう辛くない場所に